“非核非戦”の願いを問う先達の願い(広島別院)

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再建された広島別院

「ここに身を置くと、あなたにとって〝非核非戦〞とはどういうことなのですか、と問われているような気持ちになります」。2014年に再建された広島別院明信院(広島市中区宝町)の本堂で、同別院再建委員を務めた泉原 寛康さん(法正寺住職)は話します(広島別院再建の取り組みはコチラを参照)。

今から70年前の1945(昭和20)年8月6日、広島市に人類史上初めて原子爆弾が投下されました。街は焼き尽くされ、多くのご門徒もその戦禍に巻き込まれて亡くなられていったといいます。また、市の中心部にあった広島別院や爆心地付近にあった泉原さんが住職を務める法正寺もまた、爆風や火災の影響にとって全焼全壊してしまいました。 戦禍を免れたご門徒もまた、その壮絶な体験や大切な方を失った悲しみによって深く傷つき、再興して永い年月を経てもなお、凄惨な光景を思い出すあまりに、被爆体験については口をつぐむことも少なくなかったと言われます。

広島別院に設えられた灯籠。70年前のあの日、この灯籠も被爆していました。
広島別院に設えられた灯籠。70年前のあの日、この灯籠も被爆していました。

しかし、最近では、これまでは語られなかった被爆体験を語られるご門徒が少しずつ増えてきたそうです。泉原さんが「戦争の悲惨さを知ってもらい、若い世代に同じ過ちを繰り返してほしくないという願いなんですね」と語るとおり、ご門徒の方々は、もう二度と戦争で、しかも核兵器で「人」を苦しませ傷つけてはならないという「非核非戦」の誓いを次世代へと伝えなければと思い立たれたそうです。 現在、広島市では、高齢化が進んだ被爆者に代わって、体験を語り継ぐ伝承者の養成も始まっています。

 

 

 

 

 

  無縁となった被爆者の遺骨を縁として(長崎教会)

長崎に原爆が投下されたのは、広島から3日後の8月9日、一瞬にして7万人余の尊い命が奪われました。焼けて跡形もない街には爆風に吹き飛ばされた瓦礫に混じって亡骸が累々と横たわり、荼毘に付された遺骨が至るところにあったそうです。

「共に生きよ」という呼びかけを受けて、現在も非核非戦の課題に向き合い続けています。
「共に生きよ」という呼びかけを受けて、現在も非核非戦の課題に向き合い続けています。

当時、爆心地から南へ4キロほどの小高い丘の上に建っていた長崎教会も倒壊しましたが、あまりの惨状を憂えた市内の僧侶やご門徒、婦人会の方々が散乱するご遺骨を拾い集め、1万体とも2万体とも言われるご遺骨を長崎教会跡に建てられた仮納骨堂に安置しました。その後、長崎教会が現在地に移ってからは、本堂の裏に設けた「原子爆弾災死者収骨所」に納められ、以降、毎月9日に法要がいとなまれてきました。 その後、30年ほど前から、長崎仏教青年会のメンバーらが中心となって被爆者や遺骨収集に携わった方への聞き取りを進めてきました。名前も性別も年齢もわからない無数のご遺骨が語る声なき「悲しみ」と共に、「核・戦はわれらなり」という、原爆という核兵器までも作り出してしまった人間の知恵の愚かさ、罪深さへの懺悔を心に刻む歩みを続けてこられました。

そして、その取り組みが大きな力となり、「非核非戦」の誓い次世代へと伝えていくため、1999年に新たな納骨所が設けられ、「非核非戦」の碑が建立されました。「非核非戦」の碑には、「共に生きよ」という言葉が刻まれています。

私たちは、「共」に生きようとしながらも、いつの間にか自分を正義として立てて対立する相手を攻撃し傷つけかねない危うさを孕んでいます。そのような私たちであるからこそ、正義に執着して真実を見失うことがないように、阿弥陀仏は常に大悲をもって私たちに問いかけてくださっています。そして、「共に生きよ」という言葉は、その阿弥陀仏の問いかけに目覚めよと、戦禍に巻き込まれ亡くなっていった方々が、その生き様をして今を生きる私たちに呼びかけてくださる「教え」として受けとめられ、多くの人々の心に刻まれてきました。

今、長崎教区では、このような歩みを未来につなげ、若い人たちに「非核非戦」に自主的に向き合ってもらいたいと、30年ほど前に聞き取りを行った世代の方々と、教区内の若手を交えたメンバーで「非核非戦・原爆70周年実行委員会」を結成し、原爆投下70年を迎えるに際しての取り組みが進められています。

「被爆七十周年 非核非戦法会」・「非核非戦法要」のご案内

原爆が投下されてから70年を経ようとする今、戦禍に巻き込まれていった全ての人々の悲しみに寄り添いつつ、私たちの歩みが、その方々が願われたことと違わぬものとなっているのか、自らの姿勢が問われているのではないでしょうか。

2015年8月6日には広島別院で「被爆七十周年 非核非戦法会」が、同9日には長崎教会で「非核非戦法要」が厳修されます。是非ともご参拝くださいますようご案内申し上げます。

広島別院「被爆七十周年 非核非戦法会」のご案内はコチラ

長崎教会「非核非戦法要」のご案内はコチラ 

※ この記事は、月刊『同朋』8月号より一部転載いたしております。また、同号では「敗戦から70年再び「非戦」を誓う」をテーマに特集記事を掲載いたしております。是非ともお買い求めください(お買い求めは「tomoぶっく」へ)。

伝道ブックス37※ 戦後70年を機に伝道ブックス37『非核非戦―法蔵菩薩の涙―』が再版されました。この書籍は、戦後70年を機に伝道ブックス37『青草萌え出る大地』の書籍名を変更し、一部文章中の表現を改めて、新たに発行したものです。併せてお買い求めくださいますようご案内いたします(お買い求めは「tomoぶっく」へ)。