長い階段を上りきって本堂が見えてきます。振り返ると、蓮如上人がご覧になられたままの、北潟湖と鹿島の森が重なる美しい光景が広がります。
地域で違うことのある報恩講の時期。しかし酷暑のなか勤まるのは珍しいのではないでしょうか。

7月24~26日、蓮如上人ゆかりの福井県・吉崎別院では、汗を噴き出しながら、宗祖親鸞聖人の威徳を偲んで報恩講が執行されました。

お聞きすると、かつては9月上旬に執行されていたようですが、昭和20年代に入り、田んぼの収穫が8月のお盆過ぎから行われるようになったことから、ご門徒が報恩講に参詣できるようにと、吉崎別院はじめ一帯の寺院が、日程を変更するという配慮からこの時期になったようです。

吉崎別院の7月も、もともとは「永代経」「夏の御文」という行事の時期。その日程に報恩講を行うことに。時折、海側からそよぐ風があり、堂内で回る扇風機のおかげで参詣に差しさわりはありません。
ただし、法要を執行されているご輪番、法中(ほっちゅう)のみなさんは汗だくになりながらの(こん)身のお勤めをなされ、まさしく「無二(むに)の勤行」を感じることのできる雰囲気でした。
酷暑のなか勤まる報恩講
伊藤俊作氏(小松教区靜光寺)によるご法話

吉崎別院の報恩講の特徴は、酷暑の時期ということに加え、もう1つ。かつてはどこでも普通に行われていた境内施設に宿泊しての参拝が現在も可能であることです。人数は多くないものの、2晩ともに数名の宿泊があり、なかには泊まり込んで3日間全座参拝されていた方もいらっしゃいます(費用は、記事の末尾に掲載)。

そこで、1泊されていた愛知県・岡崎教区のみなさんの宿泊して参拝するという思いに触れようと、インタビューを行いました。
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吉崎別院報恩講1泊参拝者へのインタビュー ~岡崎教区「同朋の会を推進する会」のみなさん~

地元での定例の会がない時期には、今回のように現地学習として、地元近隣をはじめ、各地へ参拝・学習に出向かれているとのこと。今回は、7月24~25日朝まで吉崎別院の報恩講に宿泊参拝し、その後、本誓寺(石川県松任市)の虫干し法要に参拝して帰宅する予定だそうです。

Q 「身を運ぶことの意味は?」
「地元の人たちと話ができることが大きいです。事前に、現地で数回の打ち合わせをするようにして、関係を深めるよう心がけています。現地の方から「これからも来てください」と言われると、「待たれている」という感慨があり、それがそのまま不思議のご縁、仏のはたらきとして感じられてきます。
そして、現地に行くことで「見る」という体験ができます。すると忘れないのです。1度行っただけで、なにかあれば、脳裏にすぐにその光景が広がる。そして話題が広がります。
今日も後藤金三郎さん(参拝されていたお同行)に会えて、この人に会えてよかったと本当に思った。すごい収穫でした。私たちがここに来ることがなければ、そして後藤さんがこの場に来てくれなければ、生まれなかった喜びがありました。
「また来たい」。心から、そう思いました。

Q 「どうして、境内に宿泊して参拝しようと?」
吉崎別院では宿泊できるとお聞きして、是非ここで泊まりたいと思いました。単なる観光地巡りだったら、たぶん参拝だけして、近くの温泉旅館に泊まるでしょうね。でもここで泊まらないと。
観光旅行なら、普段の延長だから、波長があう人、合わない人が出てくるでしょう。でも別院には、信心がある人が集まる。そして待ってくれて、お手伝いしている人もいる。良い悪い、合う合わないということではない、もっと広い喜びが、別院にはある。でも、その喜びは、ここに身を置かないとわからないことですよね。しかも、ぱっと来てぱっと帰ってもわかりません。それじゃあ単なる観光と変わらない。
いろんな人たちとのつながり、(今こうやって催してくださっている)懇親会も、これは願っていたわけでは無いけど、思いがけずこういう場を頂戴できた。その不思議のご縁に仏のはたらきを感じるのじゃないかな。ここにいてもいいと願われる世界を感じます。
初日の夜には懇親会が開かれました。
初日の夜には別院主催の懇親会が開かれました。

こうした参拝の味わいを、会長の大須賀清さん、副会長の黒柳芳因さんと、懇親会の前に、座談会のような語り合いのひと時を過ごすなかでお話しいただきました。

参拝できたことの喜びを味わいながら、同じ会の方からは、「お参りの方が少なくてさみしい。近所の方たちは、どうしてお参りされないのかな?目の前のことで精一杯なのだろうか?」と、参拝者の少なさをさびしく思われているご様子でした。
【吉崎別院での宿泊費について】
1泊朝食付:4,000円(税込)/1人
※昼食・夕食は外注
※春の「蓮如上人御忌法要」の期間以外の価格
※夏と冬の冷暖房使用期は1人1泊につき100円加算