西願寺会館(手前)、西願寺と立ち並ぶ。五葉松が歴史を感じさせる
西願寺会館(手前)、西願寺と立ち並ぶ。五葉松が歴史を感じさせる
歴史ある街、歴史ある建物に母と子が集う

千利休・与謝野晶子の故郷、そして、仁徳天皇陵古墳をはじめとする古墳群のある歴史の街、堺市。その街並みの一角にある西願寺は創建1720年。お寺に隣接したところに、以前は町会の会館として使用していた建物をお寺で管理することになった築100年の西願寺会館。レトロな雰囲気の会館で『母と子どもの部屋』として、小さな子どもたちが自由に遊ぶ場になっていました。

その名も「オープンテンプルあいあう」。
実はこのネーミング、本山女性室の広報誌『あいあう』から拝借。

会館の入口をくぐるとすぐに遊べるようにおもちゃが配置された畳の間
会館の入口をくぐるとすぐに遊べるようにおもちゃが配置された畳の間

月に1回、午前10時~11時半まで、子どもたちが畳の上で走ったり寝転んだり、備えつけのおもちゃで自由に遊びます。そのそばでお母さんたちも日頃の疑問などを自然に語り合う場となっていました。
母と子に限定しているのは、気兼ねなく授乳も行っていただけるようにするため。上の子を遊ばせ、下の子にお乳をあげたり寝かせたりということも多いそうです。
たった1時間半と思いますが、子どもを思い切り遊ばせるには十分な時間。遊び疲れてきたなぁという頃に終わりの合図があり、みんなで片づけて終了。帰るときには「おなか減ったね」「おうちに帰ったらお昼ごはん食べたいな」という声が子どもたちから聞こえ、何気ない平日にこの場が溶け込んでいる様子がうかがえました。

自信がないまま、不安の中で開始

始まりは5年前。きっかけは子育て中の坊守彰子さんが、街の保健師さんから「子育て中のお母さんたちの休憩所としてお寺を開いてほしい」との声を受けたことでだったそうです。以前からお寺を街の人に開きたいと考えながらも何をしたらよいのか分からないという状況の中、こうした地域の人からの声に向き合う形で、彰子さんが中心となり準備を開始。

西願寺会館
お手洗いもあり、ベンチではおむつ変え、お母さんが休むこともできる。絵本を読んだりお絵かきをする場にもなっている

その頃のお話をうかがうと、自信もないまま、準備も手探りのまま、まずはお寺の掲示板のみでの案内と、子育て中の元同僚への声掛けだけにし、実際の意見を尋ねる機会として試験的なプレオープン。
総代さんにもプレオープンの様子も踏まえて相談し、意見をもとに改良を加え本格的なオープンに至ったそうです。

彰子さんは、「見切り発車でも始めてみる。始めてからこそ見えてきた・聞こえてきた声をもとに工夫していくことが大事だった」と振り返り、「私は社交的でも、活動的な性格でもない。だから、不安がなくなるまで準備をしていたらきっと始めることはできなかった。始めてみると、必要なこと、無理する必要はないことが見えてきた」と、実際に始めてみることで自分自身に合った方法が徐々に見えてきたという体験を語ってくださいました。

保健師さんによる異物飲み込み防止のためのグッズの使用方法の説明が行われていた
保健師さんによる異物飲み込み防止グッズの使用方法の説明が行われていた
じんわり広がる地域の人との連携

保健師さんの声をきっかけに始まったオープンテンプルあいあう。この日も保健師さんが訪問し、小さい子どもの異物飲み込みについての注意や対策グッズの使い方の説明がありました。
実は始まった頃、開放日に何かイベントを企画しなければいけないのかなと考えたこともありましたが、継続が難しいこと、そして何より、遊んでいる子どもたちを見ながらお母さん同士が自然にお話したり、子育ての情報交換をしている空気を遮って用意したイベントを行うことに彰子さん自身が違和感をもったことから、ふらりと訪れ、遊び、帰っていくという生活の中に溶け込みやすい今の形ができあがったそうです。

学区の範囲指定も行っておらず、保健師さんが子育て中の塞ぎがちな家庭を訪問する際にオープンテンプルあいあうを紹介してくださっているそうで、隣の学区や、少し離れたところから訪れる方もいらっしゃるそうです。

また、子どものお世話が大好き!という西願寺のご門徒さんをはじめ助産師の方がスタッフとして関わっています。幼稚園の先生をされていたご門徒さんや、ご門徒さんのご友人までもスタッフとして協力してくださったこともあります。地域で子どもを育てる輪が、じんわりと広がっている雰囲気が感じられました。

おもちゃは普通でいい

ジャングルジムとままごと用のテーブルセット西願寺会館用意してあるおもちゃで子どもたちから大人気のおままごとセット。木製のキッチンは彰子さんの故郷の保育園からのお下がりで、テーブルセットは彰子さんのお手製でオリジナル。1~2歳くらいの子が座るとちょうど良い高さで、牛乳パックに詰め物をし、子どもたちが好きそうなキャラクターの柄の布で作ったカバーで包まれていました。当たっても痛くなく、「キッチンがあるならテーブルセットも必要でしょ」という思いから作られたそうで、1時間半の間、子どもたちは入れ替わりで楽しそうに遊んでいました。

西願寺会館その他の子どもたちが夢中で遊んでいるおもちゃは、電車のレールやジャングルジム、積木など子育てをしている家庭であればよく見るものばかり。お母さんたちも、「おうちにも同じようなおもちゃがあるけど、色や形、配置が少しずつ違って、それが子どもにとって新鮮みたい」「同じおままごとでも場所や遊ぶ相手が違うだけで興奮しているのが伝わるから連れてきてよかったと思う」とおっしゃっていました。特別なものを用意するのではなく、街にもう1つだけ遊び部屋を増やす。このような感覚に触れると、お寺を開くことの敷居が少し下がったように感じました。

畳の上で平たく座する

また、好評なのは、今の住宅では珍しくなってしまった畳の部屋。まだ歩けない小さな子も寝そべることができ、歩ける子が転んでも柔らかいのでケガの心配が少ないという利点がありました。そのいつもとは違う柔らかな感触の上でおなじみのおもちゃを広げ、寝そべり、トタトタッという軽快な音を立てて走りまわる子どもたち。そして、その周りにお母さんもスタッフも座り、気負うことなく話はじめる様子から、お寺では当たり前の畳の間の持つ、訪れる人同士の隔たりを取り、等しく包んでいくような力を感じました。

歩けるようになったばかりお子も安心して走る
歩けるようになったばかりの子も安心して走り回る

スタッフとして溶け込んでいる坊守の彰子さんですが、今でも子育てに悩むことも多く、自分のことで精一杯で他人のことをしている場合ではないと不安になることもあるそうです。
しかし、そんなときに支えてくれたのは保健師の方からの「悩んでいるお母さんだからこそ開ける場所がある」という言葉。このひと言が彰子さんの支えになっているそうです。

プレオープンから小さな規模で始まったオープンテンプルあいあう。大雨の日、雪の日、猛暑の日など天候の悪い日も開き続けるこの場は、「行き場がない」という思いをすくい取る優しい時間を作り上げていました。

【年内の予定】  2016年11月11日(金)、12月9日(金)開催 ※詳しくは下記ホームページにてご確認ください

オープンテンプルあいあう / 真宗大谷派 西願寺 (HPへ移動します)