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手書きの寺報~仏法を聞く場~

熊本県八代市にある清傳寺(せいでんじ)では月に1度、『共命』という名の寺報を出しています。お寺から何かを発信できたらという思いをきっかけに、1996年から住職の有馬唯乘(ゆいじょう)さんと坊守の眞知子さんで始められました。その寺報も今年で21年目に入り、現在は眞知子さんと副住職の唯人さんが筆を取り、続けられています。法語や詩、本の文章を読んで感じたこと、また日常生活の中で思ったことを中心に表現されている寺報。手書きの文字と、時には坊守さんが描かれる挿絵が入り、温かみのある紙面に目が留まります。今回は副住職の唯人さんと、その『共命』を大切に綴じておられるご門徒の吉野俊則さんにお話を伺ってきました。

 

【考えることのきっかけに】

清傳寺の寺報はB4サイズの紙に文章を書いていきます。紙面の文章を坊守さんと副住職さんがどの割合で書くのか、何を書くのかについても決まった形式はなく自由なのだそうです。

副住職さんが書く上で大切にしていることは、法語や仏教の話だけを表現していくのではなく、生活の中で目に留まった文章や日常の中で感じた内容とともに言葉にしていくことです。例えば、子育てを通して感じたこと、ニュースを観ていて思ったこと、その他にも落語の小話を載せたり、法語などから受け取った問いや気づきを文章にしています。

書く時にどのような思いがあるのかをお聞きすると、

「自分が見ている世界が正しいと思っているところに、ポンと疑問が湧いてくるようなことがあったら素敵だと思う。『共命』が考えることのきかっけになってくれるといいなと思います」

と話して下さいました。

自分が今まで見てきた世界と違う世界に触れ、問いが出てくることを大切にしておられるように感じました。

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「共命」の誌面

 

【綴じられていく寺報】

その『共命』を大切にファイルに綴じておられるのが、ご門徒の吉野さんです。綴じ始めた1998年から数年間は清傳寺の報恩講でもらってくる寺報をファイリングしてこられました。それが親族の死からお月忌参りをお願いするようになり、お月忌に届けられることになった寺報を毎月綴じていかれるようになります。ご門徒の吉野さんと「共命」を綴ったファイル

 

吉野さんは綴じ始めたきっかけをはっきりとは覚えておられませんでしたが、

「今思えば、自分のお寺と関わりを持ちたかったのでしょう。だから、年に1度お参りする報恩講でもらってきた『共命』を綴じ始め、それが今も続いているのだと思います」

と話されていました。

お寺との関わりを持ちたちという思いから綴じられていった寺報でしたが、そこに書かれている内容を読んでいくうちに、自分自身の姿と重なる内容や気づきがあるのだと話して下さいました。紙面で気になった箇所にマーカーで線を引かれているものもあり、吉野さんにとって清傳寺の寺報はただの読み物ではないのでしょう。

 

『共命』ファイル
「共命」の誌面

吉野さんは今回、今まで綴じてきた寺報を読み返すうちに、これを綴じたときはこんなことがあった、こんなことを思っていたというように自分自身を振り返り、自分の歴史がこの1冊に綴じられているように感じられたといいます。

「毎回深く読み込むわけではないですよ」と笑いながら話す吉野さんでしたが、寺報を読み、ご法座にも足を運ぶうちに、自分がそれまで抱いていた仏教のイメージとは違う内容が浄土真宗にあることを知っていったのだそうです。

「真宗のお話を聞き始めた当初は何を言っているのかチンプンカンプンだったが、聞いていくうちに自分のことを言っている内容なのだと思った」

と話される姿が印象的でした。

 

【つなぐ役割をもつ寺報】

寺報を続ける中で、副住職さんは文章で表現することの危うさについて話して下さいました。

自分の中できちんと吟味されていない内容や、自分の勝手な受け取りで書いた文章を載せてしまうこともあり、それは自分の傲慢さからきたものだと書いた後で気づくことも多いのだそうです。そういう時は後悔ばかりだとも言われていました。

しかし、それでも寺報をやめることなく出し続けているのはどうしてなのでしょう。

その質問に対して、

「文字に起こす表現の場があることで、自分の受け取ってきたことをもう一度確認することができる。寺報を書くことで、自分が仏法を聞かなきゃいけないのだというところに帰っていけるのだと思う」

と答えて下さいました。

清傳寺の寺報『共命』は、お寺から何かを発信できたらという思いをきっかけに始まりました。しかしそれは、発信するということだけで終わるのでなく、書き手の側にとっても読み手の側にとっても、仏法を聞いていくことの大切さを確かめ、自分のことを振り返るきっかけになっているのかもしれません。紙面に向かい合った人と仏法とをつなぐ役割を持っている、そのような寺報として『共命』は続いているのだと感じました。

(熊本教区通信員 篠 由希子)

 

≪ワンポイントメモ≫

清傳寺さんで伺った寺報をつくるためのヒントをまとめてみました。
♣形式にこだわらずに紙面を作る
・ 手書きで文章を書いてみる
・ 子どもの書いた絵を載せてみる
・ カラー用紙に印刷する
・ 挿絵に色を付けてみる    など

♣日常生活の中で心に留まった出来事や言葉を題材に、そこから自分の受け取ったことを文章にする
・ 子育ての中で感じたこと
・ ニュースを観ていて思ったこと
・ 法語や詩
・ 本の文章を読んで感じたこと   など

♣お月忌参りの時に手渡すIMG_7013