農家奉仕団に参加して
真宗本廟(東本願寺)の境内で宿泊しながら教えを学ぶ研修事業「奉仕団」。その中で、農業を営む門徒が集まり、15年前から開催されている「農家奉仕団」。今回、2018年2月2~4日の日程で開催された農家奉仕団に参加しました。その様子をレポートします。
農家奉仕団・特別講義の様子(和敬堂)
農家奉仕団では、毎年特別講師を招き、講義を聴講する。今回は、愛農学園高等学校校長の直木葉造さんが講師。
■なぜ参加したのか

農家奉仕団は15年前、石川県加賀市の上宮寺(大聖寺教区第1組)の衆徒で、農家をしている西山誠一さんが始めました。以来、農閑期である毎年2月に開催しています。今年は石川県、三重県、滋賀県、岐阜県、福井県の5県から13人が参加しました。

参加者に動機を聞いてみました。

三重県菰野町の金津正嗣さんは、ゴルフ場のグリーンキーパーをしていました。芝生の育成と管理は、殺虫、殺菌、殺草という「いのち」を殺すことが主体でした。「果たしてこれでいいのだろうかと思った」という金津さん。12年前からコメ農家の実家で農業を始められました。農家奉仕団には10年前から参加。「いろんな考え方(農業、浄土真宗など)が聞ける。いろんなやり方を教えてもらえる」と毎回楽しみにしているそうです。

石川県加賀市の中田徹さんは、主宰者の西山さんのお孫さん。今回最年少となる25歳での初参加でした。昨年、勤めていた消防署を辞め、梨農家に転職。消防士に限界を感じて、次の職業を考えたとき、農業が自然と思い浮んだといいます。「小学生のとき爺ちゃんが目を輝かせて農業を語っていたのをよく覚えています。農家の先輩方と真剣な話をしたかった」と話してくれました。

奉仕団で法話をしてくださる「教導」は、昨年から石川県小松市の佐々木浩然さん(小松教区第2組迎巖寺)が務めています。住職の傍ら代々コメ農家を営んでおられる佐々木さんは、農家の視点からも僧侶の視点からも語れる希有な方です。

■農家奉仕団の願い

農家奉仕団の願いについて西山誠一さんに尋ねました。
この奉仕団を思いついたきっかけは、西山さんが昔、あるお坊さんに「農業をやるなら、親鸞流の農業をやれ」と声を掛けられたことでした。その後、西山さんは大谷専修学院に入学。当時の竹中智秀院長に「親鸞流の農業なんてあるんでしょうか。あるならやってみたい」と尋ねたところ、「親鸞流の農業なんてない!」と一喝されたそうです。

それでも、「親鸞流の農業」がどうにも心に引っかかっていた西山さん。

「親鸞やったらどういう農業するかなあ」
「ナンマンダブと農業はどう関係があるんや」
「農業は真宗に関係してなくてもできる。けれども農業してる者にとって、真宗は農業とどう関係しとるんか」
「真宗門徒の農業の在り方とは何か」
「十方衆生と共に生きる農業とは何か」

これらの問いを農業を営む者同士で考えてみたい。そう考えて、聞法仲間を誘って農家奉仕団を企画したそうです。毎年のメインテーマは「真宗と農業」。サブテーマは「有機農業」「食の安全」など毎年変わります。

■夢を語り共に悩む

西山さんには一つの夢があります。それは、大谷派の系列学校で農業学科をつくること。

「農業を通して真宗を学ぶことで、『いのち』への深い眼差しが学べるのではないか」という思いがあるからです。長年、地元の大谷派の系列高校に働きかけ続けてきましたが、反応はいまいち。西山さんは「なんとか実現したいが、なかなか思いが伝わらない」と肩を落とします。

今回の農家奉仕団でも、西山さんのこうした夢が議題に上りました。

参加者の一人で元牛飼いの藤井敏夫さんは、「まず私たち農業に携わる者自身が、なぜ農業を通して真宗を学ぶ必要があるのかということをはっきりさせなければならない」と指摘。「県立の農業高校があるのに、なぜ大谷派の系列高校に農業学科をつくるのか。それを聞かれたときに、自信を持ってすぐに答えられるようでなければ、実現は遠いのではないか」という疑問を述べられました。
限られた時間の中では語りきれず、後日、全員で意見書を書いて西山さんの元に送り、それをしかるべきところに送ろうとなりました。

農業は命を育む職業です。それは、仏教の教え、浄土真宗の学びと深い関係にあると感じました。大谷派の系列学校に農業学科をつくるという西山さんのアイデアは大変面白いと思います。農業は「生きるとは何か」ということを考える上で、絶好のフィールドだからです。人間が孤立を深める日本の社会にとって、真宗の教えに基づいて農業を学ぶ教育の場ができれば、大きな意味があるのではないでしょうか。

 

■農家奉仕団の可能性

初めて体験した農家奉仕団は、筆者にとってとても興味深い時間でした。農業の話題には、専門的な知識がないとついて行けないところもありましたが、いろいろと教わることも多かったです。

農業の未来を熱く語り合うその背景には、長年聴聞を重ねてきた門徒の共通の眼差しがあったように思います。それは「問い」です。奉仕団の中心にいたのは、やはり主宰者の西山さんです。みんなの議論をじっくりと聞いていた西山さんがしゃべり出すと、みんなが耳を傾けます。西山さんはとつとつとした口調で、自ら問いに向き合う姿を私たちに見せてくれました。それを見て、議論もより一層深まっていったように感じました。

農家奉仕団という場は、職業という一つのテーマで門徒が集まることの持つ可能性を教えてくれます。日ごろ、農業を通して感じる疑問をぶつけ合い、「農業に生きるとは何か」を真剣に問う場が生み出されていました。私も自分の職業で奉仕団を組んだら面白そうだ、そんな企画ができたらな、と思います。賛同者が5人以上集まれば、一度開催してみたいと思います。

(福井教区通信員 藤共生)

真宗本廟奉仕団の受け入れについて ※2018年7月まで改修工事を行っています。
手続きなど詳細については、同朋会館(研修部)にお問い合わせください。
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