お寺で葬儀 ~人と人とをつなぐ場に~
教導・佐竹圓修さん
佐竹圓修さんは、2016年、2017年、2018年の蓮如上人御影道中(御下向)の随行教導を3年連続でお務めされました。
■光玄寺での葬儀をレポート!

かつては、ご門徒がお寺で葬儀をされるのは珍しくありませんでした。しかし、小松教区では現在、本堂や庫裏で葬儀を行っているお寺はほとんどありません。そのようななか、石川県小松市串町にある光玄寺(小松教区第2組)さんは、お寺での葬儀を継続して行っています。

なぜ光玄寺さんではお寺での葬儀を継続できるのか。お寺で葬儀を行うにはどうすれば良いのか。そして、お寺での葬儀の意義とは何なのか。

こうした疑問を光玄寺住職の佐竹圓修さんに伺いました。

 

■光玄寺での葬儀の特徴

佐竹さんのお話をお聞きし、光玄寺さんでの葬儀には以下の5つの特徴があると感じました。

 

①お荘厳は内陣やお内仏を中心にする
従来の葬儀のお荘厳は「野勤め」(※)の形をとります。そのためこの地域では、内陣の障子を閉め、本堂に白木でできた祭壇(野卓が変化したもの)を置き、両脇に生花を段々に飾ります。しかし、光玄寺さんでは、焼香用の机に紙花(または小さな盛花)とお供え物のみで、内陣の荘厳やお内仏が中心になります。

 

この葬儀の形は20年前、門徒総代の方の葬儀を光玄寺さんで行った際に、従来の祭壇をなくしたのが始まりだそうです。当時は豪華な葬儀が当たり前の時代で珍しいものでした。それを他のご門徒がご覧になり、「うちでもこんな葬儀をしたい」と広まっていったそうです。町内外を問わず、所属寺の異なるご門徒から葬儀を頼まれることも多いといいます。

 

素朴な葬儀に立ちかえることで、ご家族の経済的な負担を軽くできることと、厳かな雰囲気で故人とお別れできると喜ばれていることが主なメリットです。

 

※野勤め:昔の葬儀は、自宅での棺前勤行のあと路念仏を勤めながら火葬場に向かい、火葬場の前に野卓とよばれる祭壇を置いて行っていました。

 

②大きな葬儀から小さな葬儀まで対応
光玄寺さんでは、本堂と庫裏の2カ所で葬儀を受け入れています。本堂は、200人規模の葬儀が可能。庫裏の広間では、小さな葬儀にも対応しています。

 

③準備・運営・片付けの大部分は葬儀社が担当。ご門徒が手伝うことも
元々、お寺での葬儀は町内の方々の協力が不可欠でした。受付や会場準備は男性、食事の用意は女性、というようにご近所総出で葬儀を運営していました。しかし、その協力が難しくなってきた15年ほど前、60代の門徒役員4、5人で委員会を立ち上げて葬儀の運営方法を変えたそうです。

 

それは、ご門徒のなかからお手伝いをしていただける方を募るという方法です。しかも、ボランティアではなく、時間に応じたお礼をお渡しします。それによって、ご近所のお手伝いが少なくてもお寺での葬儀を続けられる仕組みができたそうです。

 

現在は、葬儀社のスタッフが増えたため、受付以外の運営は葬儀社が行うことが多いとのこと。お寺で準備するのは内陣・庫裏の仏花くらいなので、「負担に感じることはあまりありません」と佐竹さんはおっしゃいます。

 

④ご近所の人がお参りしやすい立地
小松のセレモニー会館の多くは、車がなければ行けない郊外にあります。それに対し、真宗のお寺は人の寄り合いやすい場所に建てられていることが多いため、お寺での葬儀の場合は歩いて参列できます。とくに高齢者の方はお参りしやすく、喜んでおられるそうです。より多くの参列者とともに故人を偲ぶことができるといいます。

和楽通信員寺院での葬儀の写真
庫裏の広間での葬儀の一例。
■お寺での葬儀にあたって大切にしていること

佐竹さんは、「会場を貸すだけなので負担はありません」と話されますが、お寺での葬儀のために様々な工夫をしておられることに気づきました。それは、(1)お参りしやすい環境づくり、(2)人との信頼関係、大きく分けてこの2つです。

 

(1)お参りしやすい環境づくり

①駐車場の確保
参列者の多い葬儀では、駐車場の確保が必須です。光玄寺さんでは境内のほか、地域の協力のもと、隣の公民館や道路、田んぼ道などにも許可をえて駐車していただけるそうです。

※道路での駐車については地域によって対応が異なります。

 

②玄関を広く
受付をしやすくするため、庫裏を建て直した際に玄関を広くされたそうです。

 

③本堂・広間にエアコン・イスを用意
各家庭に冷暖房があるのが当たり前になったため、本堂にもエアコンを設置したそうです。寒い季節はカーペットを敷き、日頃のお講や法事の際もイスです。イスは200脚用意してあるそうです。正座がつらい足腰の弱い方でも安心してお参りしていただけます。

 

④物を置かない
本堂や庫裏に余計な物を置かないようにしているそうです。掃除もしやすく片付けも早くできます。葬儀は、予定を立てられず急なことですが、ご遺体をご自宅に安置できず、病院から直接お寺に来られるようなご依頼にもあわてずに対応できるといいます。お寺本来の静寂な雰囲気を大切にするため、本堂には展示物なども置かないようにしているそうです。

 

(2)人との信頼関係

①会場使用のお礼金が明確で安心感がある
会場使用のお礼金は「お気持ち」ではなく役員会で決定し、はっきりと示しているそうです。使用状況により金額の差をつけています。所属門徒は維持費をいただいているため、所属門徒以外の方よりも少ない金額に設定しているそうです。ただし、所属門徒以外の方でも普段からお付き合いのある人は、所属門徒と同じにしているそうです。

 

大切なことは、「イス1脚使用につき〇〇円」など、細かくしすぎないこと。ご家族の方は、お金のことを細かく考える必要がないので、安心して葬儀を迎えることができるといいます。

 

②葬儀社との協力体制
「従来までの祭壇のかたちをなくしたことで葬儀社からの反発はなかったのでしょうか」とお尋ねしたところ、「全くありませんでした」との回答をいただきました。それは、祭壇のあり方も含め、葬儀のかたちはご家族が決めているからだそうです。設営などで違和感を覚えるときは指摘するそうですが、基本的にはおまかせし、一緒に行うことが大切になるそうです。

 

③儀式をしっかり勤める
近くにご門徒のお宅が多いこともあり、通夜の前日に近しい方だけで行う内通夜や、納棺勤行も行うそうです。儀式を省略せず、何度もご門徒と顔を合わせることが大切で、「それが信頼関係につながるのではないでしょうか」と佐竹さんはおっしゃいます。

 

④心のこもった法話をする
勤行だけで終わるのではなく法話も大切にされているといいます。通夜では故人の生い立ちや人柄に触れながら、生死をどう受けとめるかを中心に5分から10分程度お話しされるそうです。

 

⑤日頃からの人間関係
佐竹さんは、若い頃から公民館や民生委員に関わり、今は老人会などに取り組んでおられるそうです。日頃から地域でのお付き合いがあるため、生前から「自分の葬儀はお寺でしてほしい」と頼まれる方が多いそうです。

■「ソーシャルキャピタル」というお寺での葬儀の意義

「ソーシャルキャピタルとは、地域のつながりや助け合いを社会的資源として見る概念です。お寺での葬儀が、人と人とをつなぐ一助になればと思います」

と佐竹さんは話されます。

 

その一例として、家族葬であっても、ご縁のある方に葬儀について知らせることが大切だといいます。

 

あるとき、ご主人を亡くされたお連れ合いから、「知人にも知らせず家族葬で」と頼まれたときのことです。故人は社交的で友だちの多い方だったので、ご家族を説得し町内放送をかけていただいたといいます。すると、通夜・葬儀にたくさんの方がお参りに来られ、みんなで見送ることができてその方も大変感謝されたそうです。

 

「親子の関係は、親が子どもを産んでから始まった関係です。夫婦も同様。近所の方や親の友だちは、子どもよりも連れ合いよりも長くお付き合いしてきた歴史があります。自分だけの親ではありません。世間の関係を断ち切るのは間違いで、ご縁のある方には葬儀に来てもらうことが大切。それも、ご遺体があるときにお別れすることが大切なお弔いのかたちではないでしょうか」

と、佐竹さんはおっしゃいます。

 

また、佐竹さんは「開かれたお寺」について、

 

「住職は人と人との間に立つべき。開かれたお寺とは、門を開いたら人が来ると言う話ではありません。『あの住職に頼みたい、相談したい』と、信頼される住職にならなければ、どれだけ開いたと言っても人は来ません」

 

とおっしゃいます。お寺だから信頼されるのではなく、信頼されるお寺になる。そのためには、日頃からの一人ひとりとの関係が大切なのだと感じました。

■最後に

お寺での葬儀について、佐竹さんの語られた思いで印象的だったことをご紹介します。

 

・うちはたまたまお寺での葬儀が継続していますが、とくに宣伝しているわけでもなく、お寺で葬儀をとうるさく言っているわけでもありません。ただお寺を使いたいとおっしゃる方には気がねなく使っていただきたいと思っています。そのための条件はできるだけ整えなければと思っています

・「葬儀をどうしたらいいでしょうか」とご相談を受けたときに、「お寺でこんな風にしたらどうですか」と提案できるようなお付き合いが大切だと思います

・お寺で葬儀をして良かったと言われるようにしたいと思っています

 

つまり、お寺での葬儀にあたって大切なことは、心をこめた葬儀を執り行い、「お寺で葬儀をして良かった」と思っていただくことだと感じました。

 

現に、光玄寺さんでの葬儀に参列された方が、遺言を残されてご自身の所属寺で葬儀をされたというケースも出てきているそうです。今後また、お寺での葬儀が見直されてくるのではないでしょうか。

 

お寺とは、人が集い、つながり合う場だということをあらためて気づかされた取材となりました。

(小松教区通信員 和楽賢章)

■リンク

御影道中を歩むにあたって(随行教導、宰領、供奉人の声)御下向
※佐竹住職のコメントが掲載されています。

►東本願寺の葬儀・仏事に関する書籍
真宗の仏事 ―お内仏のある生活―』 / 『仏教・仏事のハテナ?

 

■注意

葬儀の執行・荘厳については、地域差がありますので、ひとつの形式を推奨するものではありません。また、駐車場など地域との協力についても、記事を参考にされる場合は、各地の状況について充分にご確認ください。