-東京教区東京4組では、真宗門徒として葬儀をどのようにお勤めするかという儀式の手引きを記した『真宗門徒の葬儀-悲しみを深き縁として-』を発行しています。しかし、初版が発行された1993年から現在を振り返ると、「直葬」「一日葬」という新たな言葉を耳にするようになるなど、葬儀を取り巻く様相は変化している状況です。こうした変化に対応するべく、同組では編集会議を重ね、2018年2月28日に改訂版を発行されました。改訂版の編纂の経緯、そして冊子に込められた願いについて、東京教区報である『Network9(ネットワークナイン)』よりご紹介します。

仏事としての葬儀を願って
◆◆◆「直葬」「一日葬」は葬儀といえるのか?◆◆◆
東京4組 『真宗門徒の葬儀-悲しみを深き縁として-』
改訂版発行に込められた願いを聞く
-東京教区『Network9(ネットワークナイン) 335号』(2018年6月)より

Network9トップ画像(ぼかし済)

近年、葬儀の形式が大きく変わってきました。通夜を勤めず、葬儀のみの「一日葬」。身内だけで勤める「小規模葬」。僧侶を必要としない「お別れ会」。そして、通夜葬儀を行わず、火葬場でのお勤めで済ませる「直葬」。これらは、葬儀社主導のもとに執り行われ、仏事というにはほど遠いものになっています。しかし、その反面、私たち僧侶がその状況を見過ごしてきたということも大きな要因であります。
そのような現在の葬儀事情への危機感から、このたび東京4組において『真宗門徒の葬儀‐悲しみを深き縁として‐』の改訂版が発行されました。この冊子は、1993年に初版が発行され、現在まで2万5千部以上配布されています。本来、遺族が宗教心を深めていく出発点となる葬儀式が簡略化していくなかで、「仏事としての葬儀とは?」を改めて問い、確認していく内容となっています。
今回の取材では、編纂にあたった東京4組の佐々木裕氏(緑雲寺)、堀江明光氏(諦聴寺)、三浦雅彦氏(真英寺)に、改訂版発行に込められた願いをお尋ねしました。

◆初版本発行時のテーマは?

25年前に初版本発行に至った経緯は、東京4組の学習会などで葬儀社主導による間違った儀式のあり方への疑問を話し合う中で白熱していき、本という形にして葬儀社や門徒にきちんと提示していこうとして約3年をかけて作成しました。
当時の葬儀は、バブル期における華美な祭壇や通夜振る舞い、そしてお清めに象徴される習俗、様々な俗信・迷信に振り回されている状況にあり、「派手な葬儀への問題提起」と「迷信への対応」を主要なテーマとしました。

ネットワーク9初版本

※初版本(1993年9月10日発行)の表紙

◆改訂版発行の経緯と願い

初版本が発行されてから、二十余年の歳月が流れ、儀式を取り巻く状況も大きくかわりました。また葬儀が葬儀社主導のもとに執り行われ、商業化の波にのまれている現状があります。
最近は「家族葬」が一般的になり、また通夜を行わない「一日葬」、また火葬のみの「直葬」などの、著しい簡素化の流れにあります。
しかし極端に簡素化する結果、あまりのあっけなさに遺族が後悔の念を持ってしまうこともあります。極端に儀礼を略することは、もはや仏事としての葬儀の意義を失いつつあるといえるのではないでしょうか。
こうした流れの中で、私たち僧侶も葬儀を取り巻く状況の変化を見過ごしてきたことはとても残念なことです。儀式の簡素化傾向は、身近な方の命終という機縁さえ仏縁につなげることが難しい、現代の価値観の大きな変化を物語っています。そのことは儀式のみならず、寺のあり方までもが厳しく問い直されているといえます。
こうした中で、改めて「仏事としての葬儀」ということを確かめながら、今回全編にわたって見直しを行いました。東京四組の若手を含む8名のメンバーで、2016年の10月から月に1回、多い時は3回集まり、初版本を読み合わせながら意見を述べ合い、加筆・訂正していきました。この本が時流に流されることなく、これからも共に念仏の教えに遇う機縁となるような葬儀としていく一助となればありがたいです。

ネットワーク9・改訂版編集メンバー

※改訂版編集メンバー。左から、三浦さん、堀江さん、佐々木さん。

◆注目すべき改訂箇所

・見直しに着手した当初、一日葬・直葬について多くの意見がでました。「質素に勤めることと、重んじるべき儀式さえも省略してしまうことは、全く意味合いが違う」ということをしっかりと伝えたいと思い、次のコラムを新設しました。

●「直葬(火葬式)」は葬儀ではありません!
「家族に手間や金銭的負担をかけさせたくない」との故人の希望から、葬儀をできるだけ簡単に済ませようとすることがあります。

(中略)

「一日葬」は実質半日にすべてを詰め込むため、慌ただしく過ぎてしまいます。ましてや「直葬」はただご遺体を火葬してお骨にするだけであり、とても葬儀とは言えません。実際にあまりのあっけなさに、遺族が後悔の念を持つことが多くあります。あまりに簡略化しすぎるのも、仏教儀式としての本来の意義を損なうことになります。

《改訂版より抜粋》

 

・葬儀壇(斎壇)の中心に故人の写真が大きく掲げられており、御本尊が申しわけなさそうにおかれていることがあります。斎壇にかかわらず、すべての仏事において御本尊が中心であるべきことを本文や挿絵で明確にしました。

ネットワーク9・挿絵

※改訂に伴い新たに追加された挿絵

●通夜を迎えて
通夜は亡き方と向き合う最後の夜です。それは文字通り、「縁のあった人が夜を通して、葬儀までの間、安置したご遺体を静かに見守ること」といえます。ですからお勤めの間だけが通夜ではありません。
亡き方の生涯を深く追想したり、縁ある方々と語り合うなど、このかけがえのない時間を大切にしたいものです。

《改訂版より抜粋》

 

・通夜をつとめない一日葬がふえてきているので通夜をやる意義を強調しました。

 

・葬儀式は本来、出棺勤行→野辺送り(路念仏)→葬場勤行と別々に行っていたものが、今日ではまとめて行っています。しかし儀式にその流れは残っており、本来の時間・空間の流れを共にすることで、仏事としての葬儀を行う意義があることをしっかりと述べました。

 

・本の内容については、葬儀の時だけ必要になる情報ではなく、法名のこと、お墓のこと、焼香の作法など真宗の基本となる情報が載っているので、前もって読んでもためになる本です。
また体裁につきましても読みやすいように全体的に文字を大きくし、紙質を長時間見やすいクリーム色の紙にしました。また本を渡すタイミングを考えて、渡した相手の心が穏やかになるように、花柄が薄っすらと浮かび上がるカバーデザインにしました。

ネットワーク9・挿絵2
ネットワーク9・挿絵3

※改訂に伴い新たに追加された挿絵

◆改訂版の普及について

この本を手に取ってもらうタイミングも重要です。亡くなった後、枕経のタイミングで渡したとしても葬儀の内容が決まっていたりして必要がなくなってしまうからです。そのため事前に知っておくことが重要として、門徒総会で改訂版の宣伝をしたり、全国の教務所や葬儀社へ配布することで真宗の葬儀を伝えていきたい。初版本を渡した葬儀社のなかには、意識を変えてきたところもあるので、改訂版の普及も期待したいところです。

◆取材をした所感

取材をしていてすごく感じたのは葬儀に対する思いと、それを門徒に知ってほしいという2つの思いが強いということです。私の組でも勉強会等で葬儀について話し合うことはあるのですが、そこで確かめた学びを門徒に示す方法は各寺に任せる状況でした。しかし東京四組の場合はその教えを自分のお寺の門徒だけではなく、葬儀社など葬儀に関わるすべての人に知ってほしいという思いで本を作って広めていっているように感じました。

東京4組 改訂版編集メンバー

佐々木 裕(緑雲寺)、二階堂 行壽(專福寺)、堀江 明光(諦聴寺)、平松 正信(專行寺)

本多 正弘(長嚴寺)、井上 義朋(安閑寺)、佐々木 邦之(傳久寺)、三浦 雅彦(真英寺)

真宗門徒の葬儀-悲しみを深き縁として-改訂版

(取材・鞠川、渡邉、相馬/文章・相馬)

(出典:東京教区『Network9(ネットワークナイン) 335号』(2018年6月)p.3-6 )

※転載にあたり、加筆修正を加えています。

 

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『真宗門徒の葬儀―悲しみを深き縁としてー』(改訂版)《真宗大谷派東京四組発行、2018年2月28日》
1冊 300円(送料/振込料別)
▶お問い合わせ先
東京教区東京4組 緑雲寺 佐々木 裕(ささき ゆたか)
TEL03-3203-3307
FAX03-3204-0185
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