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名古屋市昭和区の閑静な住宅街に佇む西福寺。第一村雲幼稚園も運営しており、子どもたちの声が絶えないお寺で約2年前から新たな試みがスタートしました。その名も「西福寺おかげさま食堂」。毎月第2金曜日午後5時〜7時頃までお寺の施設を利用し、地域の方々に食事の提供などを行っています。取材をさせていただいた第21回「西福寺おかげさま食堂」では大人、子ども合わせてなんと150名以上の方が参加されていました。西福寺ご住職である愛知宗麿さんやスタッフの皆さん、参加者(保護者)にお話を伺いました。Q&A形式で成り立ちから現在に至るまでの運営方法などをお伝えします。

 


 

Q.まず、「西福寺おかげさま食堂」を始めたきっかけを教えてください。

 

A.私(住職)や寺族・総代さん等で日々「地域に根ざした、地域に開かれたお寺でありたい」と話し合っていましたが、私たちだけではなかなか難しく、何かないかと日々模索しておりました。そのような中、名古屋別院主催の事業「老いと病のためのこころの相談室」で一緒に講師をしていた杉山郁子さんと「子ども食堂」についてのお話しをすることがあったんです。杉山さんは、「子ども食堂」をやりたいが、やる場所がない。どこかにないかと探していました。それなら西福寺で一緒にやりませんか、と声をかけたのがきっかけです。早速、話し合いを重ね、設立趣意書を作成しました。

 

Q.設立趣意書を拝見させていただきました。趣意書には「人間同士の関係性が希薄になっている」「以前は当たり前のようにあった“おかげさま”や“おたがいさま”の関係が、徐々に失われつつある」など、現代社会の様々な問題の根源は、「人と人との関わりの貧しさ」と指摘されてありました。本当にその通りだと思います。

 

A.現代社会を見れば、全国的に核家族化が進み、高齢者の独り住まいが増加しています。趣意書にあるように、人間関係が希薄になり、地域の中でも、日々顔を合わせ、安心して話せる関係性が作られなくなり、それぞれの家庭や地域に起こっている問題にも気づくことが難しくなっているのではないか。また、もし気づいたとしても、「お節介ではないだろうか」とためらい、その気がかりを気軽に相談できる人や場所をもたないため、結果として、些細なことすら助け合うことが難しい状況が生まれていると感じています。「西福寺おかげさま食堂」は、数多くの人が集うことのできる“お寺”という空間で、“食”を中心とし、そこに集う誰もが、お互いの存在を認め、一人ひとりがもつ様々な違いを気にすることなく、安心して集うことができる場づくりのお手伝いをしたいという願いをもって立ち上げました。

SONY DSCスタッフによる調理の様子。

SONY DSC本日の献立。

SONY DSC会場には献立のほか、使用された原材料が掲示されています。

 

 

Q.今回も150名以上の参加者がありましたが、どのような運営方法で行っているのでしょうか。

 

A.2017年10月からスタートし、今回で21回目を迎え、それなりに流れが出来てきました。一度に参加者全員が食べることができないので、受付時に番号札を渡し、家族間で食べてもらっています。待っている方や、食べ終わった方は本堂に、毎月違うレクリエーションを用意して楽しんでもらっています。基本的には大学生が担当してくれています。今回は中京大学天文学部さんが手作りのプラネタリウムを持ってきてくれました。ドーム状の中に入って、中で映像を流しています。他には名古屋市立大学BBS会がバルンアートや輪投げ、折り紙など、子どもたちと一緒に遊べる企画を用意してくれます。大学生は、「西福寺おかげさまプロジェクト」のメンバーと繋がりのある学生さんをはじめ、その友人やお寺の活動をSNS等で知った学生さんたちも参加してくれています。

SONY DSC受付で番号札を配布。

SONY DSC食事は家族ごとに食べられるようになっています。

SONY DSCレクリエーションの様子。奥にあるドームは手作りのプラネタリウムです。

 

 

 

Q.これまでの反省点や、これからのビジョンについて教えてください。

 

A.趣意書に書いてある通りになっているか、というと疑問が残りますが、毎月多くの参加者が「西福寺おかげさま食堂」に足を運んでくれていて、月に一度でも各家族の食事担当の方がここに来れば、食事の献立を考えなくていい。作らなくていいと思える場があれば、それでいいのかなと思っています。本当はもっと多くのありとあらゆる世代、子どもからおじいちゃん、おばあちゃんまで参加してくれたらと思っています。例えば地域でふらっと近所のスーパーなどであっても、挨拶を交わし、そこから新たな人間関係がつながっていけばいいのですが、そこまではまだまだですね。今はこの場所を継続していくことが大切だと思っています。また、こういう活動を全国のお寺さんに知ってもらい、他のお寺でも地域に根ざした活動が広まっていけば素晴らしいと思っています。お寺にはすでに充実した環境が整っているので、ぜひチャレンジしてほしいです。

 


<取材を終えて>

“やりたいけど場所がない人”と“場所はあるけど必要な情報や人手が足りない人”の思いがたまたま出あい、スタートした「西福寺おかげさま食堂」。やってみると、人と人とのつながりで運営スタッフや参加者も大勢集まり、月に一度西福寺は満堂。本堂では子どもたちの大きな声が飛び交い、裏方のキッチンでは、暑い暑いといいながら、何百個の唐揚げを協力しながら揚げている。大学生のスタッフもどうしたらよりよく案内ができるのかなどを考え、行動し、配膳の準備を進め、子どもたちとも仲良く話をしている。保護者にも話を伺い、「月に一度、安価に夕食を済ませることができるのは、本当にありがたい」とおっしゃっていました。

たまたま出あい、始まったことがこんなにも大きく、そして、人と人とが自然とつながり合っていく場がここにはありました。この場で人と出あい、それがまた違う場で広がっていく。そういった流れ、つながりの輪が広がっていく場が「お寺」の役割の一つなのではないかと感じました。

 

(名古屋教区通信員・市野俊道)