祭事をきっかけに受け継がれてきた「法灯」①

会所となったご門徒のご自宅。日暮れ迫る中、続々とご参拝の方々がお越しになられました。
会所となったご門徒のご自宅。日暮れ迫る中、続々とご参拝の方々がお越しになられました。

【「石崎奉燈祭」とは】「石崎奉燈祭」は、石川県七尾市石崎町で伝承されてきた漁師祭です。もともとは、京都の祇園祭の流れを組む石崎八幡神社の納涼祭(お涼み)が発祥と言われており、以前は祇園祭と同様に山車が使われていたそうです。しかし、度重なる大火が原因となり、明治22年からは奥能登から移入した古い「奉燈」を用いるようになりました。

「奉燈」は、神様を乗せた神輿の前衛と後衛を勤めるもので、神輿の足元を照らすことが本来の役割だと言われています。大きいもので高さ15mにも達する巨大なもので、1基の「奉燈」を担ぐためには成人男性100人の力が必要なのだそうです。

かつては、その巨大な「奉燈」は、分解してお寺の本堂の軒下や天井裏などに格納され、保管管理されていたそうです。現在では、神社の傍に建てられた倉庫に格納されるようになり、お寺で保管管理まではしていませんが、小型の「奉燈」の組み立てや電装部品のテストなどにお寺の境内地が使われているそうです。住職も快く地域の祭事に協力しており、真宗のお寺が石崎町の重要な祭事を運営する上で、なくてはならない存在になっています。

現在のところ、石崎町内の7つの地区が「奉燈」を所有(西3区は1998年から所有)し、毎年8月の第1土曜日に本祭りが催され、「サッカサイ、サカサッサイ、イヤサカサー」と威勢のいい掛け声とともに民家の屋根すれすれに通る「奉燈」の姿に、町中が興奮の坩堝と化します。

そして、1997年には、「石崎奉燈祭」を含む能登の「キリコ祭り」が、国の「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に指定され、また、2015年1月には、東4区と西1区の「奉燈」が東京ドームで開催された「ふるさと祭り東京 〜日本のまつり・故郷の味〜」にも出演されました。

 

【地域との法縁を繋ぐ「若衆」の存在】

その「奉燈」を出す各地区の中心を担っているのが、「若衆」と呼ばれる19歳以上30歳以下の地域の若手の方々です。「若衆」の方々は、「奉燈」の担ぎ手であることはもちろん、「奉燈」の組み立てや保管管理、担ぎ手となる地域の若者たちへの呼びかけなども担っています。

石崎町は海に面した漁場町であることから、以前は「若衆」の多くが漁師をされており、漁に出ていかない毎月1日と15日(旧暦の15日は満月の日で漁に出ても漁獲を得られないため休みにしていた)に、「若衆」の代表者の自宅を会所として「お講」を開いて仏法を聴聞していたそうです。この「お講」で勤められていた報恩講が、「若衆報恩講」です。

「若衆報恩講」は、西3区を除く6つの地区で現在も厳修されており、運営の主体を「若衆」の方々が担っておられます。会所は、現在も「若衆」の代表者の自宅とされており、会所となるご門徒のご自宅には、立派なお内仏が設えられていました。

そして、「若衆報恩講」の当日には、周辺地域の方々へ周知するため、勤修に先立って「若衆」の方々が「おちゃふり(「じゃーぶり」とも言う)」と呼ばれる触れ回りに出かけることが恒例となっています。若衆の方々は、手振り鐘を鳴らしながら、「東4区の、若衆報恩講に参ってくされこう、早よう参ってくされこう、○○やぞ(○○に会所門徒宅の屋号が入る)」と、伝承されてきた能登弁のセリフ回しに独特の符子を付けて声を出し、近隣地域を隈なく練り歩きます。

「法要前の「おちゃふり」の様子。鳴らしている手振り鐘は約50年に亘って使用されているとのこと。」
「法要前の「おちゃふり」の様子。鳴らしている手振り鐘は約50年に亘って使用されているとのこと。」

 

 

 

 

 

 

 

 

ご門徒宅の仏間での勤行。幅一間に及ぶ立派なお内仏が設えられていました。
ご門徒宅の仏間での勤行。幅一間に及ぶ立派なお内仏が設えられていました。

 

 

 

 

 

 

 

触れ回りの途中、偶然にも「若衆」の先輩に遭遇すると、先輩からは「もっと声を張って」との激励。「若衆」の方々も、これに応えてより一層声を張るなど、地域全体で若者たちを見守る温かさが感じられました。また、「若衆報恩講」の法中を勤められた能登教区第13組養泉寺の藤原 彰玄住職は、「昔は、若衆報恩講以外の在家の法座でも子供たちが触れ回りに行ったものです。いろいろ都合もあって、現在は若衆報恩講の時だけにされていますが、懐かしい光景ですね」と目を細めて語られました。

勤行が始まる頃には、廊下に溢れるほど多くの方がご参拝くださいました。
勤行が始まる頃には、廊下に溢れるほど多くの方がご参拝くださいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(次週へ続く)