通夜・葬儀の執行に関する環境の変化と危機感

目まぐるしく変化していく現代社会の中で、寺院を取り巻く環境も例外なくそれに巻き込まれていきます。ここ数十年の著しい変化の一つに、通夜・葬儀の執行に関するものがあります。具体的には、各々の家もしくは寺院で執り行われていた葬儀が、葬儀場(会館)に移っていったこと、それに伴い、葬祭社が請負う仕事の領域が広がっていったことがあげられると思います。

およそ10年前、同じような時期に大分市組では数人の若い方が地元に戻ってきて、自坊での活動が始まりました。そこで目の当たりにした葬儀は、まるでお勤めが焼香のBGMのように扱われていたり、アナウンスなどによって過度に演出され、仏法の会座として本当にこのままでよいのかと考えさせられる状況でした。この状況に対し、危機感を覚えた若い方の発案で組を挙げて、葬儀について見直していくことになりました。

真宗の葬儀について組内寺院で協議
~『通夜・葬儀の手引き』の発行~

通夜・葬儀のてびき
通夜・葬儀のてびき(日豊教区大分市組) クリックするとPDFでご覧いただけます。

とはいうものの、一方的に葬祭社に対し要求などをしたところで信頼関係は生まれませんし、ともすれば「あそこのお寺はうるさいので、あそこのお寺だけ気をつけておけば良い」ということになりかねないと考えました。そこでまずは実態の調査から始めました。葬祭社に対しては寺院に望むことを、組内の寺院に対しては式次第や衣体についてアンケートをとりました。そこから見えてきたことは、葬祭社からは寺院が期待されていること、そして肝心の寺院のほうが各お寺で式次第・衣体などについての考え方がバラバラであるという実態でした。

そこでまずは組内寺院での統一、しかも形式的な統一ではなく、真宗の葬儀とは何かという根本的な問題にまで立ち返った上での意思統一が必要であるということになりました。今振り返ってみると、この作業が一番苦労し、時間がかかったように思います。基本的に宗派が定めた式次第や衣体(中陰勤行集所収)にのっとりながらの協議でしたが、各寺院から「今までやってきたことを変えることはできない」など様々な意見が飛び交い、時には口論になることもありました。その中で、やはり真宗の葬儀とは何かという問いを念頭に置きながら協議を重ねていき、則るべき事項と各寺院の裁量に任せざるを得ない事項などが浮かび上がってきて、協議や声明の講習などを経て、2010年に『通夜・葬儀の手引き』という一つの形にまとめることができました。

地元の葬祭社さんとの協議会

その手引きを基に地元の葬祭社にお集まりいただき、大分市組との葬儀に関する協議会をもつことができました。きびしいご意見をいただきながらも、協議会の前と後で大きく変わったこともありました。何点かあげさせていただくと、

  • 祭壇の中心を故人の写真ではなく御本尊にしたこと
  • 位牌ではなく、法名軸を用意していただくようになったこと
  • お勤めの中のアナウンスは極力控えめに行うこと

解りやすい変化としては以上のことです。きちんと向き合えば葬祭社の方も迅速に動いていただけることが大きな収穫であったとも思います。

当初は、ご門徒の中からも戸惑いの声が聞こえてきましたが、定着しつつある現在では、落ち着いて仏様に手を合わせられる葬儀になったという感想もいただきます。しかし、手引き作成から6年が経ち、更なる問題点が出てきているのも事実であり、一度点検の必要が出てきているのではと感じています。大分市組では本年度より、改めて真宗の葬儀とは何かを問い直し、具体的な点検作業に入ること協議中です。