「法話はノウハウではない」ということをよく聞く。確かにそうだが、多くの人はノウハウではないと分かっていても、なにしろどうしていいか分からなくて最初の一歩を踏み出せないのである。(講師配布資料より)

Ⅰ基礎編1

まさにそのとおりです。大谷派では、僧侶となる研修課程において、法話の研修は一切ありません。僧侶となった後も、個人の学びと努力に全て任されているのが現状です。

 

富山教区では、僧侶の法話の研鑽が大きな課題となっています。

事の始まりは2014年の教区御遠忌事業「百人百話」でした。これは教区内の僧侶100名に毎日法話をしてもらおうという、3ヶ月に及ぶ連続法話会です。毎日平均60名の方が熱心に聴聞に来られ、盛況のうちに終わりました。

しかし、アンケートには厳しい指摘が相次ぎました。

「ほとんど毎日聴聞したが、法話と呼べるものは2割程度しかなかった」

「もっと勉強して、自らのことばで仏教を語ってほしい」

「今まで何を聞いてきたのか」

「声が小さい。早口で何を言っているのかわからない」等々…

富山教区の僧侶の法話が門徒さんにどのように受け取られているのか、その現状がはっきりしたのです。

 

それ以来、教区では法話についての様々な研修会を開催してきましたが、実践的な研修会はありませんでした。そんな中、教化委員会の改選を機に2017年度から新たに取り組んでいるのが、「話し込み法話」という手法を用いた実践的な法話研修会です。

 

以下は、2018年度の研修会の様子です。

 

●1回目「基礎編」  4月11日開催

「一番仏法を聞けないこの私だから、法話をさせていただくんです。こういう立場にでもならなければ、仏法を聞く気がない者が法話をするんですよ!」

講師は瓜生崇さん(京都教区)。法話とは何か、法話の心得について熱く私たちに訴えられました。

 

さらに、昔から伝えられてきた法話のスタイルを1つの例として示してくださいました。

1.【講題】

法話の一番最初に親鸞聖人の法語を出して、今からこの教えについて法話をする、ということを明確にする。

2.【法説】

講題で上げた言葉がどういう意味か、ということを解説する。

3.【例話】

法説で説いた法語の教えと、自分の生きざまや生活の中との関わり、社会の出来事などを織り交ぜながら、今の私たちにその法語が何を訴えているのか、私がどんな気づきを得たのかを話す。

4.【結勧(合法)】

最後に、法説で話した内容から、どうして南無阿弥陀仏が救いなのか、なぜお念仏なのかを話して終わる。

 

この学びをもとに、参加者はそれぞれ2回目の開催までに20分の「法話原稿」(400字詰め原稿用紙10枚)を作成してくるという宿題が与えられました。

 

 

●2回目「実践編」  6月17日開催

いよいよ「話し込み法話」実習です。まずは、会場にて進め方の説明を聞きます。

Ⅰ基礎編2

「話し込み法話」は、クジを引くなどして二人一組となって隣同士に座り、1対1で相手に向かって20分の法話をするものです。

机には黒板に見立ててA4の紙を横にして置き、そこに板書しながら法話をすすめていきます。終わったら、聞いていた相方がその法話の講評をします。講評といってもシートに記載されたポイントに沿って確認していく作業なので、誰でもできます。

・法話の態度について。(上から目線ではないか、言葉遣いは適切か)

・発声について。(早口でないか、はっきり話しているか、聞き取りにくくなかったか)

・板書について。(後から見て内容が分かるように要点を書けているか、伝わる板書になっているか)

・法話の内容について。(伝えたいことは明確か、親鸞聖人の言葉が入っているか、自分が抜けてただの説明になってないか)

これにより、2人が初心者とベテランというコンビだとしても、率直に感想を伝え合い学び合うことができるのです。

 

講評が終わったら交代して、今度は相方が20分の法話、そして講評。ここまでで約1時間になり、これを1セットとし、コンビを変えて2セット行いました。2時間も話す・聞くことに集中しますと、どっと疲れます。けれども心地よい疲労感でもあります。

Ⅱ実践編写真

実習が終わったら、法話実演の時間です。参加者の中から2名が講師に指名され、全員の前でやはり20分の法話をします。終了後、講師から講評をいただき、全員で「こうすればもっと良くなる」点を共有しました。

 

 

実践編を終えて、参加者からは「講評してもらえるので自分の法話の問題点・改善点がよくわかった」「1対1なので、いきなり大勢の前で法話するのと比べればハードルが低かった」「始める前は緊張で帰りたかったが、実際にやってみるととても勉強になった」などの感想を聞くことができました。

 

私も参加しましたが、実践編が始まるまでは憂鬱で仕方ありませんでした。普段は、法話はすれども、感想を聞いたり講評をしてもらうことはほとんどありません。どうなってしまうのか…何を言われるのか…

でも、始まってみるとお互いに懸命に取り組む真剣な時間に、あっというまに没頭していきます。そして批判されるのではなく、前向きな「こうすればもっと良くなる」指摘をいただいたので、自分が良く分かっていない点はどこか、意識すべきことは何か、が見えてきました。これは独学ではなかなか得られないことと思います。

 

この研修は2019年度においても、寺族研修小委員会の目玉事業として計画されています。1~2度開催したからといっても、すぐに効果が出るわけではないでしょう。地道な歩みだけれども、この新しい取り組みによって教区僧侶の皆さんの法話力が向上し、また自信をつけていくことにつながっていくものと思います。

(駐在教導:鷲尾祐恵)