第10回「真宗大谷派ハンセン病問題全国交流集会」報告
 そこに人がいること

<真宗大谷派ハンセン病問題に関する懇談会交流集会部会チーフ 中杉 隆法>

 さる四月十九日から二十一日にかけて、第十回真宗大谷派ハンセン病問題全国交流集会が、国立療養所邑久光明園、長島愛生園、姫路船場別院本徳寺を会場に開催されました。
 テーマは「私たちの歩み、そこには人がいる─らい予防法廃止、謝罪声明から二十年─」というものでした。そのテーマのもと、全国各地、また韓国、台湾からも海を超え延べ三百人を超える方々が参加してくださいました。
 ハンセン病国賠訴訟西日本弁護団代表の德田靖之弁護士の基調講演は、「当事者とは誰のことか─「らい予防法」廃止からの二十年を振り返って─」という講題で、ハンセン病問題に向き合おうとするときの私たちのあり方、姿勢というものをあらためて問われるお話でした。
 その中で、「ハンセン病問題における当事者とは、まさしく私のことであった」という大切なお言葉をいただきました。その言葉に後押しされるように、集会の日程が進む中、参加者一人ひとりが、この集会の「当事者」として、その時間を過ごしていったのです。
 「私が当事者である」という意識こそが、人と出会い、その関係を開いていく大きな源であったのだと思います。「橋」を渡りそこに人がいることの内容を、当事者としてあきらかにしていきたい、そんな願いがあらためてこの集会で生まれていったのです。
 数え切れない願いによって架けられた「人間回復の橋」。この橋を渡り、その人と出会うことで橋を架けることの大切さを知ることができました。
 これまで壁ばかり作って自分を守っているつもりが、実は狭い世界に閉じ込めていた、まさに隔離とはそんな私自身が作ってきたのです。もう一度橋を架けることでその世界を破り、隔離を超える歩みを踏み出す大きな一歩が今ここから始まりました。
 
集会参加者一同による「山陽宣言」を掲載いたします。  

第10回交流集会宣言 山陽宣言

 2016年4月、私たちはここ姫路船場別院本徳寺そして国立療養所邑久光明園、長島愛生園において、「第10回真宗大谷派ハンセン病問題全国交流集会」を開催いたしました。
 それはらい予防法が廃止されて20年、また私たちがその法律の過ちを見抜くことが出来ずに、それまでの国の隔離政策への協力を悔い改め、謝罪し、教団をあげてハンセン病問題に取り組むことを社会全体に表明してからも20年目のことでした。
 
 その20年の歩みを振り返ると、これまで様々な形でハンセン病問題と出遇った私たちは、その度にいろんな壁にぶつかり、立ち止まり、そしてまた再び歩み出す、その連続であったように思います。その中で隔離とはいったい何であったのか、またその歩みの中から生まれてきた願いというものはどんなものであったのか、さまざまな問いと向き合ってまいりました。そして今回の交流集会で一人ひとりがそのことを確かめ合ってまいりました。
 
 そこには人がいる、その人をどこまでも大切な存在として見出すことができずに、またそのことで自らの尊厳をも失っていった私たちに、もう一度人間としてともに歩もうではないかと橋を架けた人たちがおられました。
 「人間回復の橋」─この橋が架けられたということの意味を私たちはこの集会であらためて学ばせていただきました。それは隔離されたものと、隔離してきたものがその現実に立って、両側から隔離というものを超え、出遇っていくための橋であったのです。
 
 これまで幾度もその橋を渡り、そこで眼を開き、耳を傾け続けてきた交流という運動。人は人と交流することで初めて互いに差異(ちが)いを認め合い、その中でこの人とともに生きたいという願いを持つことができるのでしょう。その関係を宗祖は御同朋と呼ばれ、念仏者としての道をともに歩んでこられました。
 
 これまでの交流は、そこにいる人を御同朋として見出していけるような交流であったのか、そうではなかったのか、そのことをきちんと確かめていくことができるのもまた交流というものが持つどこまでも開かれた時間と空間なのであろうと思います。
 
 集会開催の五日前には熊本を中心とする九州地方を大地震が襲いました。多くの人の命が失われ、その被害の深刻さが日に日に増す中、いまだ揺れ続ける恐怖の中で被災者の方々は不安な時間を過ごされています。その状況の中で私たちは一体なにができるのか、これまでハンセン病問題と向きあう中で学んだ人間と人間との関係を、この度の震災からも問われ続けています。
 
 今回の交流集会では全国各地より、また韓国、台湾からもお越しいただき、人間と人間が交流することを求めここに集まってくださいました。いまここに次のことを誓い、集会宣言といたします。
 
 私たちはこれまで、向こう側から架けられた橋を渡り、そこにいる人たちと出遇ってまいりました。その橋は真の人間らしくありたいという人たちの願いによって、社会全体に向けて架けられた橋でありました。今度はその願いを自らの願いとして再びこちら側から橋を架けたいと思います。
 いま私たち一人ひとりが橋となって、そして誰かがその橋を渡ってまた人と出遇っていけるように。また、すでに亡くなっていかれた方々、これから未来を生きようとする人たちとの架け橋として、この集会に参加したすべてのものが、橋となっていきたいと思います。
 さらにその橋がいまだ遠い回復者の方々のふるさとや家族にも架けられるよう、療養所にとどまらず、あらゆる世界に橋を架けましょう。そしてひとりの人間として同じ過ちを繰り返すことなく、隔離ということを超えていく歩みを、今日ここからすすめてまいります。
 
 2016年4月21日
 第10回真宗大谷派ハンセン病問題全国交流集会
 参加者一同

 

真宗大谷派宗務所発行『真宗』誌2016年7月号より