第11回全国交流集会に向けて ④

 

本年9月13日〜14日、富山・高岡教区の共催で、
「第11回真宗大谷派ハンセン病問題全国交流集会」を開催いたします。
前号に続いて、基調講演の講師であり、
長らくハンセン病回復者の家族の声を聞いてこられた
黒坂愛衣氏(東北学院大学准教授)にご執筆いただきます。

 

ハンセン病家族訴訟の判決を前に(下)

<東北学院大学准教授 黒坂 愛衣>

 

ハンセン病家族の被害 —家族も差別される側に置かれる

 「患者だけでなく、患者家族もまた『らい予防法』の被害者だった」というのが、ハンセン病家族訴訟の原告たちの訴えだ。その被害の内実は大きく二つ、「差別される社会的立場に置かれたこと」「家族関係の形成を妨げられたこと」だ。ただし、原告一人ひとりの歩んだ人生はさまざまであって、被害のあらわれかたも多様である。
 まず「差別される社会的立場に置かれたこと」について。原告のなかには、肉親がハンセン病であったことを理由に、いじめや村八分にあったとか、結婚差別や就職差別にあったという人々がいる。隔離が推進された時代を生きてきた人々は、行政当局による病気の肉親への入所勧奨や住居の消毒がなされたことで、近隣住民に〝隔離が必要なほど怖い病気であり、その患者を出した家だ〟と知らしめられ、それ以降、より厳しいまなざしを向けられるようになったと訴えるケースが少なくない。さらに、今回の集団提訴で明らかになったことだが、提訴時点で二十代や三十代前半の若い世代も結婚差別にあっているケースが複数ある。〝結婚がだめになったあと、新しく恋愛する気持ちにはなれなかった〟といった言葉からは、被差別体験によるダメージの深さが伝わってくる。
 他方で、原告のなかには、このような直接的な被差別体験をもたない人々もたくさんいる。しかしそうした人々も、多くの場合、差別から身を守るため、肉親がハンセン病にかかった事実を徹底して周囲に隠して生きていた。〝家族の話題を避けるため、幼い頃から友達はつくらないようにしていた。結婚はできないと考えた〟〝就職するとき、家族のことを聞かれずに済むよう、面接試験のない小さい会社を選んだ〟といった原告らの証言がある。差別を避けるため、人生の選択肢をみずから狭めざるをえないケースがあったことがわかる。結婚相手や姻戚関係、生まれた自分の子どもや、友人など、親しい人々に肉親がハンセン病であった事実を長年にわたって隠し続けたしんどさを訴えた原告もたくさんいる。病気の肉親について「死んだ」と嘘をついたり、療養所に面会へ出かける際、遠出の理由をごまかしたり、肉親からの手紙をみつからないよう早々に処分したり……。日常をともにする相手に、肉親についての事実を言えない長年の苦労があった。そうした状況は現在まで続いており、この家族訴訟の原告であることを家族に秘密にしているという人も少なくない。
 さらに、原告のなかには〝肉親がハンセン病であった事実を長年知らずにいた〟という人たちもいる。ある五十代の原告男性は、小学生の頃、「伝染病」と言われていじめられ、中学生になっても遊び友達ができなかった。妹も同じ目にあっており、それがなぜなのか、当時は理由がわからなかった。今回、家族訴訟の動きが始まったことで、父親がハンセン病であった事実を初めて知らされた。なぜ、寂しい子ども時代を過ごさなければならなかったのか、いまになってようやくわかったのだと男性は陳述書に記している。この原告男性のように、周囲からの差別に無防備にさらされながら、その出来事の意味を本人だけが知らずにきたというケースがある。
 

家族の被害—家族関係が阻害される

 被害の内実の二つめ、「家族関係の形成を妨げられたこと」についても述べておこう。自分の親がハンセン病療養所へ隔離されたため、その親とのあいだに、家族としての親密な関係を築けなかったというケースが多くある。幼い時期に親と引き離された寂しさを、何人もの原告が涙ながらに語っている。また、長期にわたって引き離されたことで生じた心的距離を埋めることができず、親が亡くなるまで「お母さん」「お父さん」と呼べなかったという原告もいる。
 ハンセン病が怖い病気だというり込みは、当事者の家族の関係に大きな影響を及ぼした。子どもの頃、親に抱っこされたり手を繋いだりしたことは一度もなかったという原告たちがいる。ハンセン病であった親が、わが子への感染を心配して、スキンシップを避けたのだ。また反対に、家族のほうが感染を心配し、病気の肉親との接触を避けたというケースもある。〝父親が療養所から帰省したとき、茶碗を別にして洗ってしまった〟との涙を流す原告がいる。さらにいえば、原告のなかには〝自分にもいつか病気が出るのではないか〟〝自分の子どもに病気が出るのではないか〟と心の底で危惧してきたという人も少なからずいる。
 

隠さなくてもいい社会を求めて

 原告の人々は、これまでの裁判で、こうしたハンセン病家族としての受苦をやっとの思いで言葉にしてきた。「肉親がハンセン病であったことを隠さなくていい社会を、われわれは求めている」と林力・原告団長は訴えている。国や、わたしたち市民は、かれらの声にどれだけ向き合えるだろうか。六月二十八日の判決を注視したい。
 

「第11回真宗大谷派ハンセン病問題全国交流集会IN富山」のご案内
 
期 日:2019年9月13日(金)〜14日(土)
会 場:富山県総合福祉会館 サンシップとやま
           (富山県富山市安住町5-21)
参加費:1,000円(資料・保険代含む)
※会場までの往復旅費、宿泊費及び懇親会費等は別途参加者負担となります。
【申込方法】
本誌5月号巻末綴じ込みの申込用紙または、
宗派ホームページ
(http://www.higashihonganji.or.jp/news/collection/29105/)より
申込用紙をダウンロードいただき、必要事項をご記入の上、
郵送またはFAXにて下記までお申し込みください。
申込締切:2019年7月10日(水)
申込書送付先:名鉄観光サービス富山支店
        (FAX:076-431-2056)
〒930-0004 富山市桜橋通り1-18 北日本桜橋ビル5階

 
真宗大谷派宗務所発行『真宗』誌2019年7月号より