2020年12月11日 新型コロナウイルス感染者が1日500人を超えたころ、オンライン法話会を開く東京都港区の了善寺の百々海真住職に取り組みについてインタビューしました。

 

 

 

こういう時こそお寺は開いていてほしい


 

ー了善寺さんでは新型コロナウイルスの影響下で、積極的にオンラインを活用した教化活動を展開されていますが、オンラインでの取り組みをはじめたきっかけをお聞かせください。

 

百々海住職 オンライン会議サービスのZoom(ズーム)を使ってリモート配信を始めたのは、4月に都心のオフィスに通勤するOLの方から「こういう時こそお寺は開けていてほしい」とのLINEメッセージが届いたのがきっかけでした。

 

もともと、北海道の法友夫妻が聴聞できるように7・8年前からSkype(スカイプ)というテレビ電話ソフトでパソコン内蔵カメラを使い、北海道・茨城・多摩の門信徒3世帯にライブ配信していました。ですが、個人的なクローズド配信にすぎず、多くの方に呼びかけたのは2020年の春からです。

 

 

ーオンラインでの教化活動を取り入れるにあたって、不安やためらいはありましたか。

 

百々海住職 「直接顔をあわせることができないオンラインでの法話・教化が成り立つのか」という疑念は私にもあります。ですが「ならば新型コロナウイルスの影響が出る以前の自坊において、教化活動が十分だったのか」と問いかえされました。また東京は特に感染状況が厳しく、従来の多人数参加型行事は開催困難な中、「現状において可能な教化方策は何か」ということを今も考え続けています。現実には高齢層の門徒が一定割合おられ、オンラインになじまない方も多いです。ですから、掲示伝道や寺報や施本、手紙や電話は大切です。私にとってのオンラインは、新たなバリエーションの一つという位置づけです。因みにささやかな試みですが、開封しなくても目につくコラムを掲載した「葉書通信」を緊急事態宣言が発令された4月以降に送付しています。

 

そもそも、首都圏は月忌参りやお取り越し等の真宗の風儀がきわめて薄い土地柄です。首都圏における全寺院に占める浄土真宗系の寺院数はわずか6%(全国では28%)と明らかに少数派なのです。(07.6.20付「教化研究138号」所収 三浦節夫「首都圏と真宗大谷派」)さらに近年の仏事離れによって門徒とますます疎遠になりつつある中での新型コロナの出現です。電車やバスなどの公共交通機関が主な移動手段であり、門徒の多くは徒歩圏外、区外・都外在住ですから、感染への不安が消えない中を電車に乗って「東京の寺」に参詣する方が少ないのはむしろ当然です。そんな中、首都圏の報恩講は多くは内勤め、あるいは規模縮小となりました。因みに自組(東京6組全10ヶ寺)では、6ヶ寺内勤め・1ヶ寺延期中・3ヶ寺規模縮小です。

 

拙寺でも本堂の参詣人数は12名に限定し、Zoom配信を併用するハイブリッド形式で、毎月3回程度の法座を継続しています。Zoom配信に取り組んでみてわかったことですが、日光アレルギー等の持病により外出を控えたい方、重度の花粉症の方、親の介護で家を留守にできない、あるいは育児中で子連れでの参詣は気が引けるといった方々の存在に初めて気づかされました。「コロナだからオンライン」ではなく、新たな聴聞機会の創出になり得るということです。

 

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オンラインで法座に参加される方々

 

 

在宅聴聞


 

百々海住職 それから、拙寺の法座の案内には「仏法は息吹と体温を感じる「面授」に尽きます。ですが外出を控えている方や、介護や子育てにより家を留守に出来ない方、海外など出張先からの参詣、同居する孫と一緒の参詣、入院・入所中の方の参詣など、オンラインが開く新たな地平も2020年春以降の取り組みの中で見えてきました。念珠を手にモニターの前で「在宅聴聞」するのは、「家を寺にせよ」(西村見暁)との教命の実験でもあります」と書いたことがありました。

 

かつて石川県の仏壇職人の方から「お内仏は家庭内に本堂が開かれること。家が寺になること」と教えていただきました。2021年は聖徳太子1400回忌御正当ですが、太子は在家生活がそのまま道場に転ぜられる仏道の象徴です。「家を寺にせよ」とは、「一生之間能荘厳」(『真宗聖典』725頁)との阿弥陀の誓願でしょう。

 

「在宅聴聞」とは家庭に居ながらにオンラインで仏法聴聞すること、そこから生活の全てが私への説法だったとの目覚め・気づきの一瞬を賜り続けるという二重の意味をこめています。

 

 

取り組みの中で見えてきたこと


 

ーこれまでの取り組みを通して感じていることや工夫されていることはありますか。

 

百々海住職 現在は双方向の語り合いを重視してオンライン会議サービスのZoomを使っています。Zoomは基本的に自分の姿が映りますから、参加者には「居ずまいを正し、お念珠を手にしてモニターの前にお座りください」と案内しています。また従来通りに月例法座は定額参加費、主要行事は随意進納と案内し、振込口座もメールに明記してお支えいただいています。

 

Zoomは生放送ですから聞き逃しも生じますが、その不便さが一座の大切さを感じさせる一面もあるようです。「法座が始まる14時に間に合うように13時半には家に帰るようにしています。カレンダーにも「14時~了善寺」と書いてあります」と言われた参加者がいて、ライブ配信の意味を教えられました。その方がカレンダーに予定を書き込んだところから聴聞が始まっているのですね。

 

オンラインによって「法話」が「情報」になり、「法話鑑賞」に留まる傾向も感じます。一方で、オンラインの普及のおかげでずっと抱えている本質的な課題が顕在化したのであり、座談の目的がむしろハッキリしたのではないかとも感じています。

 

また、YouTubeの普及には目をみはりますね。本堂の配信機材を見て、「住職、ユーチューバーになったの?」(笑)とご高齢の門徒から訊かれるほどにYouTubeのことは誰もが知っています。手軽に視聴でき、門信徒などへの限定配信も可能。チャットや事後のメールのやりとりなどを組み合わせれば双方向性も確保できます。広く世に発信するメリットも含め、Zoomとの使い分けやYouTubeとZoomの同時配信が今後の課題です。

 

 

ー今回の了善寺さんでの報恩講はどのように勤まりましたか。

 

百々海住職 10月下旬の報恩講では、講師の池田勇諦先生にご自坊からZoom配信いただき、拙寺参詣者24名・講師ご自坊参詣者10名・海外を含むZoom参詣者最多64名、計100名ほどが共に聴聞し、質疑応答・語り合いの場を共にしました。案じていましたが、「オンラインは発言しやすい」という声も聞かれ、次々に手が上がって予定の50分を80分に延長しました。ご法話が多くの方に波及したからこそですが、オンラインのある種の「薄さ」が発言のハードルを下げる一面もあるようです。

 

印象的だったのが、池田先生は拙寺報恩講の際にご自坊(西恩寺様)のホワイトボードに「了善寺報恩講」と掲示してくださったことです。西恩寺様の本堂で「了善寺報恩講が勤まっている」という公開・広開の精神と仰ぎます。「今年もまたこういう形で了善寺さんの報恩講にお参りさせていただき、本当にありがたいご縁を頂戴しました」とご法話を始められ、新時代に随順する姿勢をお示しくださいました。実は当日のご法話に深い感銘を受けた方、落涙された方が大勢おられたことをその後の電話、手紙、メールで知らされました。オンラインでも真実は伝わることを知らされたご縁でした。

 

 

 

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了善寺報恩講の様子(2020年10月)本堂人数限定&オンライン配信

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法話の様子(桑名西恩寺様本堂にて)ホワイトボードの右に「了善寺報恩講」と記載

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質疑応答・西恩寺本堂にて 参詣者からの質問に池田勇諦先生がモニター越しに応答

 

僧伽の力あればこそ


 

ー法話の配信に関して、注意されていることは何でしょうか。

 

百々海住職 オンライン配信を始めるにあたって参考にさせていただいたのは、滋賀の瓜生氏や東京の竹川氏が取り組むYouTubeでの先行事例でした。配信上の技術的なアドバイスもいただきました。また拙寺からも近い築地本願寺様(本願寺派)のライブ配信等の取り組みはクオリティが高く、足を運んで見学させていただいています。

 

配信環境の不備から、音声や映像の質が下がれば聴聞は成り立たず、再び参加する意欲を失わせます。良好な法話音声の提供は、寺の務めと心得ています。拙寺では有線LANを本堂に延長し、本堂のマイク音声をミキサー経由でパソコンにUSBケーブルで入力しています。パソコンやモニターは持っていたので、当初費用は数万円程度でした。また3回行った石川県白山市・金沢市・三重県桑名市からの法話のライブ配信は、地方在住の法友や拙寺衆徒、講師ご自坊の全面的なご協力を得ています。事前にリハーサルを行い、通信障害発生時の代替手段の確保などを事前に打ち合わせています。一人では絶対に不可能ですし、リスクはゼロにはなりませんが、ご講師をはじめ僧伽の力に支えられています。

 

法座の当日は私一人では手一杯なので、若手門徒に配信作業を担ってもらえるように移行していきます。またオンラインの参加者数名にZoomの共同ホストやモニター役を引き受けてもらい、映像や音声に支障があればチャットで連絡するように協力してもらう等の対策を講じています。

 

また、有志で、主催者・参加者双方用のオンラインマニュアルを作成しました。私自身も仲間とZoomでの聖教輪読会を続けていますが、Zoomは少人数の集いにも好適です。本願寺派のある坊守さんは、3人で大経の素読と私訳をする学びを「三人文殊」と名づけて毎週開いておられます。素晴らしい取り組みだと思います。

 

 

今後を見据えて


 

ー新型コロナウイルスの影響がいつまで続くかわからない中ですが、今後についてはどのように考えておられますか。

 

百々海住職 誰もが感じていることでしょうが、新型コロナ感染の長期化により、仏事はますます簡素化あるいは激減傾向にあります。コロナがきっかけとなって、従来の寺離れが加速し、また高齢層の外出自粛は常態化しつつあります。

 

企業各社は恒例の年末年始の挨拶回りも見合わせ、一部の企業や特定の職種では通勤手当が廃止され在宅勤務が標準になっています。自然災害のリスクもあり、コロナ以外の感染症も予見されますから、危機管理能力と時代状況への即応力が前途を左右するでしょう。未曽有の状況ですから、前例主義が通用するはずがありません。過去の成功体験を捨てて、変われるかどうかが試されています。一時しのぎで乗り切れるという判断自体が読み違いかもしれず、「変わらねばならないこと」、「変えてはならないこと」の見きわめが日々問われているのではないでしょうか。「問われる」ということは、時代状況から応答を求められているということです。

 

オンライン法座では参加者の地理的な壁は無くなります。オンラインには長短があり限界もありますが、地域や宗派の違いを超えて自由に参詣できる点がひとつの魅力だと思います。拙寺の月例法座には本堂参詣者は5~10名ほど、Zoom参加者は20名前後、その内、京都・愛知・岐阜・北海道などから10名余りが継続参加されています。本願寺派や高田派のご縁の方もいます。少なくともオンライン志向の門徒の意識は開けていて、私たち僧侶よりもずっと先に進んでいます。それらの方々は現役世代が多く、聞法人口が減少しつつある中で大切な存在です。ですから我々は知らぬ間に大きな分岐点に立たされているのかもしれません。

 

(インタビュアー:企画調整局参事 朝倉俊隆)


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