掲示板の前に立つ住職の行章さん、坊守の仁子さん、副住職の行仁さん
掲示板の前に立つ住職の行章さん、坊守の仁子さん、副住職の行仁さん
伝道掲示板    
人も草木も虫も
同じものは一つもない
おなじでなくて
みな光る
(榎本栄一)

 

 


掲示板は歴史を映す鏡

 

 教区及び組の改編により2020年7月1日に発足した九州教区鹿児島組。この広大な組の大隅ブロックの中心部に所在するのが最正寺である。ご住職、後藤行章さんと副住職の行仁さんにお話を伺った。

 

 最正寺には2つの掲示板がある。1つは道路に面する納骨堂の壁に設置されており、近隣の病院に来た人や通学中の子どもたちの目にもふれるため、なるべく平易な言葉で説かれた法語を掲示している。 もう1つは本堂の前に立派な朱塗りの掲示板が設置されている。これは門徒さんの手製で、まず掲示板そのものが注目の的になっているが、時に同朋新聞を貼り、お盆の時期には甕に植え付けた蓮の花を両脇に飾るなど、視覚的にも工夫を凝らしている。

 

 取材時には掲示板の大きさを活かして4枚の紙が貼られていた。その中でも鮮やかな色彩で存在感を放っていたのが、仏教のカレンダーを切り抜いた絵である。その下には、絵に関連した仏教語の解説文が掲示されており、絵と法語の両方を相乗して深く味わえるしくみになっていた。 そのほかにも2枚の法語があり、1枚はご住職の筆によるもの、もう1つは門徒さんが書かれたものだという。最正寺の掲示板は寺族の者だけでつくっているのではなく、ご門徒さんの協力が加わってできており、ご門徒と共に聞法していくことを体現したような生きた教化の現場でもある。

 

 また、最正寺は公共職業安定所の広い駐車場に隣接しているため、大隅一円から来たたくさんの人の往来があり、お寺参りに来た人以外でも掲示板をじっくりと見ておられることが多いという。副住職は「寺に住んでいる人間の方が、案外掲示板を見ていない。掲示板を見ている人を見て、こちらがあらためて掲示板に気づくことがある」と言われたのだが、それはまさに掲示板がはたらいて、仏法が届けられた瞬間に出会うとともに、真逆の自身のすがたが写し出されたという意味を含んだ言葉であった。

 

 

本堂と掲示板が向い合わせに建っている
本堂と掲示板が向い合わせに建っている

 最正寺は1993(平成5)年の集中豪雨「鹿児島8.6水害」の後、9月の「台風13号」の被害で本堂が崩壊するという悲しみを経験している。しかし、だからこそご門徒も住職家族も一丸となって現在の堂宇の再建を果たされた。

 

 ご住職は一層熱心に教化に励まれつつ、法務のほかにも様々な活動をされてきた。保護司として長年活動されて地域の方々に広く深く関わり、教師として地元の高校に勤務し、また心に響いた言葉があればノートに書き留めてこられた。そのことが現在の掲示板にも反映されているという。

 

 最正寺の朱塗りの掲示板は、本堂と向かい合うように設置されている。これは本堂の立地上、お寺の前を通った人に最も見やすい位置に建てられているからであるが、まるでこの掲示板は、最正寺の歴史と教化・教育に尽力されてきたご住職の歩みを覗く、映し鏡のようだった。

(九州教区通信員・中谷潤心)

 

『真宗』2021年2月号「お寺の掲示板」より

ご紹介したお寺:九州教区鹿児島組最正寺(住職 後藤行章)
※役職等は『真宗』誌掲載時のまま記載しています。