掲示板の前に立つ本田住職
掲示板の前に立つ本田住職
伝道掲示板    
これでいいのだ
(『天才バカボン』赤塚不二夫)

こんな状況だからこそ

 萬徳寺の在所である三河の岡崎は、かつて徳川家康の居城があり、三河一向宗の拠点としても知られている。近くを流れる矢作川の流域には、聖徳太子を奉じるための太子堂がいくつもあり、その一つである柳堂は、親鸞聖人がこの地で念仏の教えを広めた際に一ヵ月近く逗留した御堂として伝えられている。

 

 お寺に伺った日は、年始らしい澄んだ空気に青青とした空が広がり、川の向こうに岡崎城の白い城壁が映えていた。萬徳寺の境内には住職の本田康英氏が園長を兼任する明徳保育園があり、この日は年明け初めての登園日。園児たちの楽しげな声が響いていた。

 

 康英氏が掲示伝道を始めたのは住職になる前のこと。大谷大学を卒業してお寺に戻ってすぐに、当時の住職から掲示板を引き継いだ。当初は妙好人の言葉を引用することが多かったが、今は、本や映画など日常の中で何気なく目にした言葉から選ぶことが多いとのこと。「自分自身が頷けること。そして門徒さんが見てもわかりやすいような言葉を選んでいる」と話してくれた。

 

「心にしみる法語めぐり」の用紙
「心にしみる法語めぐり」の用紙

 お寺の掲示板を使い、萬徳寺が所属する岡崎教区第一組では、昨年から組内の有志寺院十二ヵ寺で「心にしみる法語めぐり」という取り組みを行っている。

 

 これは参加者が有志寺院の住所・地図が記された「法語めぐり」の用紙を持って各寺院を回り、掲示板の法語を書き留めるというもの。昨年十一月から今年の三月三十一日まで、前期・後期の二期間で実施し、書き留めた法語の数に応じて記念品が贈呈される。

 

 元々は・組内の門徒が寺院の垣根を越えて他寺院の報恩講にも参拝できるように・と、「報恩講めぐり」という行事を行う予定であった。しかしコロナによって中止を余儀なくされ、代わりに「法語めぐり」を開催することとなった。

 

03萬徳寺で「法語めぐり」前期の期間に掲示した法語
03萬徳寺で「法語めぐり」前期の期間に掲示した法語

 「簡単に行事を中止で終わらせたくなかった。聴聞の場が失われつつあるこんな状況だからこそ、多くの方に教えに出会ってほしかった」と康英氏はその思いを話してくれた。「こんな時だから、恐れることなく生きていける道があることを、お寺が伝えていかなければならないのではないか。どんな状況でも精一杯生きて自分を肯定してほしい。法語を通してそのことをお伝えできたらと思う」。

 

 優しい笑顔が印象的な康英住職。今回お話を聞く中で、聞法の場を閉ざさぬよう懸命に活動される方々、またコロナをきっかけに新たな取り組みを始めるなど、その可能性を模索している姿に刺激を受けた。

(岡崎教区通信員・別符浩瑛)

 

『真宗』2021年3月号「お寺の掲示板」より

ご紹介したお寺:岡崎教区第1組住職 本田康英)
※役職等は『真宗』誌掲載時のまま記載しています。