このたび、教学研究所編『曽我量深 生涯と思想』(東本願寺出版)を刊行した。本書は、二〇〇四年刊行の教学研究所編『清沢満之 生涯と思想』に連なる一冊として編集されたものである。
曽我量深師は、一八七五(明治八)年に生まれ、一九七一(昭和四十六)年におよそ九十六年の生涯を閉じられた。侍董寮寮頭、大谷大学長を歴任するなど、近現代の大谷派に大きな影響を与えた。教学研究所にも顧問として関わり、伝道研修会などに幾度もご出講いただいた。その学恩ははかり知れない。
教学研究所が編集する『教化研究』では、その没後すぐに「曽我量深先生」(第六六号)を特集したが、五十年の時を経た二〇二一年には「曽我量深没後五十年」(第一六七号)という特集を組んだ。その眼目は「単に師の遺徳を偲び、その功績を顕彰することではない。半世紀の時を経過したからこそ探究することのできる課題を再検証すること」(「特集にあたって」)であった。
本書は、それらの研究を礎として、あらためて曽我師の生涯と思想を尋ね直し、思想的課題や時代状況との関わり、そして生涯を貫いた志願を探究したものである
本書は以下の目次のとおりに、曽我量深師の生涯をたどっている。
第一章 誕生から真宗大学での学び
第二章 浩々洞と師・清沢満之
第三章 明治の思想界との対峙
第四章 郷里での沈潜と思索
第五章 再び教壇へ
第六章 戦争の時代
第七章 戦後の活動
第八章 真宗第二の再興に向けて
第九章 一切衆生の宿業を担って
明治から大正、そして昭和の戦前・戦後という激動の時代を歩んだその生涯には、それぞれの時代の情勢が刻印されている。そこには現代から見て、問題視せざるを得ない事柄ももちろんある。本書はできるかぎり、時代情況のなかでの曽我師の姿を、見過ごすことなく浮かび上がらせることに努めた。
また本書編集にあたって、曽我師の生家である圓德寺、入寺先である淨恩寺、故郷に建てられた曽我・平澤記念館に調査へ赴いた。そして、従来広くは知られていなかった貴重な資料を確認させていただき、その一部は本書に掲載している。ご協力いただいた皆さまに感謝申し上げたい。
これまで曽我師の生涯にわたる評伝といえば、伊東慧明「曽我量深──真智の自然人」(『浄土仏教の思想』第十五巻、講談社、一九九三年)がほとんど唯一のものであった。その成果を受け継ぎつつ、これから曽我師の著作を読もうとする際の手引書として本書は刊行される。現代を生きる多くの方々にお読みいただき、曽我師の言葉に触れる機縁が開かれることを願ってやまない。
(教学研究所研究員・藤原 智)