兵庫県姫路市船津町にある西勝寺。創建は明応年間(1492年~1501年頃)であり、蓮如上人から賜ったご本尊・六字名号(南無阿弥陀仏)など多くの歴史を今に伝えると共に、有志の方々でお斎を作る「おときクラブ」など新たな活動も行っています。
その西勝寺では、お寺の報恩講のみならずご門徒の皆さんが家にご住職を招いて勤める在家報恩講が大切にされています。今回は西勝寺より程近い姫路市山田町南山田東組の在家報恩講を取材させていただきました。
お参りし合う地域のかたち
この地域の報恩講は、ご門徒の皆さんがご住職と一緒にみんなでそれぞれの家を回って、お参り合いをする形で勤めます。取材に伺ったのは2024年12月1日、この日は6軒の家で報恩講が勤まりました。午前9時、澄んだ空気とやわらかな陽射しの中、1軒目の家に一同が集合し、在家報恩講の1日が始まりました。1軒1軒のお内仏の前で「正信偈」同朋奉讃が唱和され、住職の後藤順さんにより「聖人一流」の御文が拝読されました。勤行後にはみんなでお茶やお菓子などをいただいてから次の家へと歩いて向かい、昼食は当番のご門徒さんの家でお斎としてお弁当をいただきました。
1軒目と6軒目の家では後藤住職から法話がありました。「この地域のようにお参りし合う形の在家報恩講は少なく貴重です。毎年、報恩講が勤まりますことを誠に尊い、うれしい、有難いことだといただいております」と挨拶し、「食前のことば」にふれながら「今、大切だと思うことは「み光のもと」です。自分の力で生きてきたということが翻されて、仏様のもとにみんな生かされて生きていたという感覚、感動が報恩講を形づくってきたのではないかと思います」と話されました。続いて、「報恩講は、勤めて良いことがあるのか、ないのかという損得の感覚ではなくて、尊徳。尊い、有難いという感覚だと思います。仏様と共に生きているということがないと私たちはどうしても損か得か、良いか悪いか、好きか嫌いかにぐっと引きずられてしまいます」と報恩講を勤めることの大切さを確かめ、ご門徒の皆さんも「そうやなぁ」と頷かれていました。
皆さんから伺った思いや記録―お参りし合うことを通じてー
ご住職とご門徒の皆さんに南山田の報恩講についてお話を伺いました。今日の報恩講を迎えるにあたり、準備は家の掃除から始まって、仏花に使用する松やネコヤナギなどは知り合いの方の山からいただき、それをみんなで分け合って立てるそうです。蝋燭は朱蝋が用意され、当日のお線香や蠟燭に火を灯すのもそれぞれの家の方が行っていました。そして、床の間には六字名号「南無阿弥陀仏」や親鸞聖人が描かれたお軸が掛けられ、丁寧に報恩講をお迎えされている様子が窺えました。「無事にお勤めが出来てよかった」、「終わってしまって名残惜しいな」と皆さんさまざまな思いをお話くださり、お一人のご門徒さんが「昔は大変なことが沢山あったけど、今日、報恩講をお勤め出来ることが一番幸せ」と、ご住職にお話しされていた姿が印象的でした。
お話を伺う中で、ご門徒の皆さんが持ち回りで管理している在家報恩講の記録や名簿を見せてくださいました。以前は10~15軒の家がお勤めを共にし、夜遅くまでみんなでお参り合いをしたことなど当時の様子も聞かせていただきました。
ご住職にお参りし合う在家報恩講の経緯を伺ったところ、昭和には既に在家報恩講はあったようだと古老の方から聞くことができたそうですが、南山田のお参りし合う形がいつ頃、どのような経緯で始まったのかはっきりとは分からないということでした。ご住職は「2025年は昭和100年となるそうで、少なくとも100年以上前から続いていると言えるのではないでしょうか」とお話くださいました。また、ご住職は続けて「在家報恩講の経緯などについて関心が高く、他県や他所の在家報恩講の例などぜひ教えていただきたいです」と、自坊や各地の在家報恩講の経緯や歴史について今後も尋ねてみたいとも語られました。
ご先達やお仲間が時代や社会の変遷の中で残してくださったものを大切にしていきたいと、みんなで思いを新たにする時間となりました。
報恩講を勤め、伝えていきたい
今回の取材は、この地域の中心となって報恩講のお世話をしているご門徒の福島憲明さんの思いがきっかけとなり実現しました。福島さんは、以前からこの地域の報恩講を何かの形として残したいと強く思われていたそうです。「みんなで参り合う形での報恩講が減ってきているので、何とか伝えていきたいと思っています。これからも生きている間は勤めたい」とお話しくださいました。
南山田の皆さんが大切に報恩講をお勤めされている姿に温かさを感じ、報恩講が勤まることの有難さ、みんなで勤めることが出来る大切さを教えていただきました。自身の報恩講に対する姿勢をあらためて考え、ご一緒させていただいたことを大変うれしく思う取材となりました。
(山陽教区通信員 青山祐一)