痛みって美しいんだ
(名和 達宣 教学研究所所員)

 先日、夜遅くに帰宅すると、居間でテレビを観ていた妻子たちが「お父さん、これを見て!この歌だけでも聴いて!」と声をかけてきた。あるガールズグループのオーディションでの歌唱シーンであった。私は内心「いろいろと忙しいのに…」と戸惑ったが、促されるまま座って歌声に耳を傾けた。そして、その美しさに驚嘆した。
 
 妻子たちが観ていたのは、YouTubeで昨年の秋から継続的に配信されていた「No No Girls」というオーディション番組。新進の音楽プロダクション(BMSG)が、それまで男性アーティストのみのプロデュースにとどまっていたところから、新たに始めた企画とのこと。
 
 身長や体重、年齢、国籍等を問わず、「ただあなたの声と人生を見せてください。」というメッセージを受けて、国内にとどまらず、世界各国から7千以上の応募が集まった。その大半は、これまでの人生のなかで、容姿や国籍、性別等を理由に世間から「No」を突きつけられてしまった人、そして自分で自身を否定してきた人である。
 
 プロデュースを一任されたのは、今、若い世代の女性を中心に、カリスマ的な人気を獲得しているミュージシャン、ちゃんみな。彼女自身が、これまでの人生において、日本人の父と韓国人の母の間に生まれたというルーツから、あるいは容姿等を理由に、いく度となく世間から「No」を突きつけられ、身に痛みを感じてきた。ちゃんみなはオーディションのコンセプト(審査基準)を次のように表明する。――「No FAKE(本物であれ)」「No LAZE(誰よりも一生懸命であれ)」「No HATE(自分に中指を立てるな)」。この観点から番組名を見直せば、「No No」には〝否定の否定は肯定〟という世界観が暗示されているようにうかがわれる。
 
 全16回の番組では、初期審査を通過した30名の女性たちが、互いに影響を与え合いながら、また、ちゃんみなや他のコーチの指導によって自らを解放させながら成長するとともに、シビアな審査を受けていく様子が映し出された。他のオーディション番組と異なるのは、落選者たちに対してプロデューサーから投げかけられる言葉である。「方向性の違いや時間的な制約によるもので、あなたにはあなたの花を咲かせる場所がある」「これからも支え続ける」「過去の自分をたたえてほしい」等々(取意)。いくつもの言葉に震撼した。最終審査を通過した7名は、今春(2025年4月)、「HANA」という名のもとデビューを果たし、すでに世界中から称讃を受けている。
 
 番組の随所で流れるちゃんみなの曲の歌詞にも大いに揺り動かされたが、ことに胸の奥底に響いたのは、次の一節である。
 

 今になってやっと知った 痛みって美しいんだ   (「PAIN IS BEAUTY」)

自身の感得にもとづく言葉であるにちがいなく、それゆえ多くの人々に共感をもたらしたのであり、私の依りどころとする地平とも共振した。
 
 浄土真宗は、痛みや苦悩、悲しみのなかにこそ美しい花が咲くこと、さらには一つ一つの花を支える大地があることを明らかにする仏道である。


(『ともしび』2025年6月号掲載 ※役職等は発行時のまま掲載しています)


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