静かな山の集落にたたずむ、まるで昔話に出てくるような銅葺き屋根のお寺「光善寺」。そこでは、「念仏一座」によってほぼ毎月一回、多い時には月に三回の紙芝居公演が行われています。一座を立ち上げて約二十年、すでに二四〇公演をこなす人気の紙芝居一座です。

                光善寺外観

 この一座を立ち上げたのは、光善寺の住職・木屋行深さん。福岡の大谷短期大学で教鞭を執る中で、学生たちが親鸞聖人の名前は覚えても、その教えが心に残っていないことに気づきました。「もっと伝わる方法はないか?」と考え、たどり着いたのが紙芝居でした。 最初は卒業生と二人で紙芝居の読み聞かせをしていましたが、一生涯の紙芝居は単調になりがちで、とても退屈です。そこでピアノの演奏を加え、台詞に抑揚をつけることで、まるで舞台劇のように立体感が生まれました。さらに、仏教讃歌に加えて、当時の若者に馴染みのあった絢香さんの『三日月』を取り入れると、生徒たちから「音楽に惹かれた」との声が。音楽の力を確信した行深さんは、紙芝居の絵や台本をオリジナルにし、演出も進化させました。現在、念仏一座のメンバーは六名に増え、紙芝居は紙からプロジェクター投影へと進化しました。これにより、広い本堂のどこからでも見やすくなりました。楽器もピアノだけでなく、ギターや打楽器が加わり、音響設備も充実。メンバー全員がマイマイクを持ち、一公演で二十曲ものオリジナル曲を披露するほどのスケールになっています。まさに、紙芝居の枠を超えた・エンターテインメント・といえるでしょう。少し方言まじりの台詞回しもご愛嬌。念仏一座は、ただの紙芝居一座ではなく、音楽に言葉を乗せて伝える・アーティスト集団・になったのです。

                  スクリーンに投影する紙芝居
 光善寺と念仏一座のみなさん

 

 行深さんは、「授業で学んだことは、すぐには実感が湧かないかもしれない。でも、いつか人生のどこかで思い出し、その言葉が心に響く瞬間がきてほしい」と語ります。その想いが、紙芝居の中の言葉や音楽に込められているのです。 紙芝居と音楽を通して仏教の教えを伝える念仏一座。そのワクワクドキドキする公演が、今日も誰かの心に種をまき、根を張り、芽を出し、やがて美しい花を咲かせることでしょう。

(九州教区通信員・本田智子)


『真宗』2025年6月号「今月のお寺」より

ご紹介したお寺:光善寺(住職:(こ)(や)(ぎょう)(しん)

※役職等は『真宗』誌掲載時のまま記載しております。