2018年4月2日にお勤めする全戦没者追弔法会。法要、記念講演後、参拝接待所視聴覚ホールにて開催されるシンポジウムでパネリストとしてご登壇いただく栗原俊雄さんさんをご紹介します。
宗務所での全戦没者追弔法会事前学習会の講師としてもお話しいただいた栗原俊雄さん(※2018年3月16日記事参照)。栗原さんは、年を追うごとに激減している戦争体験者の証言や、戦争遺物を精力的に取材し、各方面へ発信されています。戦争の不条理なからくりと、今なお続く戦争による被害の現状をまざまざと伝えることで、私たちの現前に戦争の惨烈さをはっきりと知らしめてくれています。多くの情報のなかに身を置きながら、大切なことを見落としがちな私たちに、栗原さんの活動は大切な視点をくださるのではないでしょうか。今回のシンポジウムを通して、大切なことを次世代に伝えていくことができるよう、まずは私たち一人ひとりに届いた声を「聞き漏らさない」ようにするためのヒントを栗原さんから学んでいきたいと思います。
栗原俊雄さん。毎日新聞本社員 大阪本社 編集局 学芸部(2008年1月現在)
地道な取材活動を続け、戦争の体験者の声を次世代に届ける栗原俊雄さん
◆プロフィール

1967年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒、同大学大学院政治学研究科修士課程修了(日本政治史)。1996年、毎日新聞社入社。現在、毎日新聞東京本社社会学芸部記者。著書に『勲章』『遺骨』(いずれも岩波新書)、『戦後補償裁判』(NHK出版新書)、『20世紀遺跡 帝国の記憶を歩く』(角川学芸出版)、『シベリア抑留最後の帰還者』(角川新書)などがある。

 

◆戦後生まれに何ができるのか

全戦没者追弔法会では、法要後に記念講演・シンポジウムを開催し、そこでの熟議が、参加者一人ひとりの、戦争について考える醸成の場となることを願いとしています。そして、その企画立案にあたっては、各部門から選出の職員によりプロジェクトチームが結成され、部門を超えての意見交換が行われています。
今回の法会は、企画の段階で、「争経験者の声を聞く場にしたいという意見が多数を占めました。当然、これは本法会が始まって以来大切にしてきたことであり、体験者の声に耳を傾けていくことは今後も大切にしていくべきことです。

 

しかしながら、終戦から72年が過ぎ、当時、20歳の方でも90歳を超えているという現状があります。戦争経験者から生の声を聞くことが極めて困難になっているということを、候補者を選出する場で、プロジェクトのメンバーがありありと感じたことです。

 

それでは、戦争の経験者がいなくなり、人々から戦争の記憶がなくなってしまえば、戦争は肯定されていくのでしょうか。そんなことは決してありません。

 

そこで、経験していない者が、大切なことをきちんと伝えていくためには何が必要か。プロジェクトではこのことが今回の法会で重視することの1つになりました。

 

「伝える」ということで各報道に目を向ければ、夏には第二次世界大戦を取り扱われることが多くなります。終戦記念日を中心とした時季的な報道は「8月ジャーナリズム」とも言われています。栗原さんは新聞という報道機関に身を置きながら、戦争の体験者の声を伝える報道を年中行っています。私たちの足元に今もなお多くのご遺骨が眠っていること伝え、戦争被害者でありながら、補償を求めて闘っている人々の姿を伝えてくださっています。

 

栗原さんの姿勢からは戦争を体験していない「戦後」の世代が、今の自分たちがどう生きるかを歴史にたずねる方法を教えていただけるように感じます。

 

事前学習会でのタイトルは、「戦争体験を戦後世代が引き継ぐために―「忘却」に抗する―」でした。私たちは想像力を持っています。目の前の人の声聞くと、想像力がかりたてられ、その想像力は日常の生活の何気ないところに変化をもたらしてくれます。これからお迎えする2018年の全戦没者追弔法会を通して、何を心に刻むことができるでしょうか。みなさまとご一緒に栗原さんのお言葉に耳を傾けたいと思います。

(文:全戦プロジェクト記念講演・シンポジウム班)

※しんらん交流館交流ギャラリーにて3/28より開催の「平和の尊さを語りつぐ 絵巻物で知るシベリア抑留」展で、栗原さんにはシベリア抑留についての解説、コメントをご協力いただいています(※2018年3月30日記事参照)。

シベリア抑留絵巻物展示・栗原さん解説パネル
3/28~5/28まで開催