療養所を訪ねて⑧菊池恵楓園
「真宗大谷派ハンセン病問題に関する懇談会」第5連絡会委員 田中 一成
熊本県合志市に国立ハンセン病療養所・菊池恵楓園があります。旧久留米教区では、ハンセン病問題部会での事業として、菊池恵楓園真宗同志会の皆さんと、盂蘭盆会、秋季彼岸会、年末交流会、報恩講、春季彼岸会(本願寺派熊本教区主催)、花見会と、毎年交流の場を持たせていただいてきました。去年、2020年度から九州内の五教区が一つとなって九州教区が誕生し、久留米教区としての定期交流会は、九州教区のハンセン病問題部会の事業として引き継がれることになりました。そんな九州教区の発足は、新型コロナウイルスの感染拡大という中での船出となってしまいました。
昨年の春、緊急事態宣言が全国に出されたことで、久留米教区としての最後の主催事業である、恵楓園での春の花見交流会も中止せざるをえませんでした。真宗同志会会長の国見さんからは、「ぜひ交流会を開いてほしい。国が出した緊急事態宣言を理由にして中止してほしくない」というご要望をいただき、部会としてもなんとか人数を絞っての開催を模索していました。しかし、園の方針としては許可できないということで、残念ながら開催することが叶いませんでした。
それから1年と5ヵ月、未だに恵楓園に身を運ぶことができていません。その間、何度か入所者のお一人とお電話でお話させていただきました。先日は、ワクチン接種が二回済んだことや、まだ外からの来訪者は誰も入れないこと、入所者の人たちも外出が認められないこと、真宗同志会の皆さんはお変わりないこと等を教えていただきました。また、その日が、お連れ合いの月命日にあたり、「園の職員さんがちゃんとお参りしてくれたけど、お寺さんも呼べんとよ。お盆もお勤めはできんやろうな」と残念そうにおっしゃっていました。「コロナが収まったら、お参りに行きますね」と約束して電話を切りました。
園の皆さんの年齢を考えると、ハンセン病問題から、「今」という時間に何ができるのか、ということがつきつけられてきます。私が交流会に参加させていただくようになったのは、「らい予防法違憲国家賠償請求訴訟」が原告団の全面勝訴となった後の2002年からでしたが、その当時の恵楓園には600名ほどの入所者がおられ、大谷派の交流会にも真宗同志会の皆さんを中心に20名ほどの方々が参加されていました。しかし年々、交流会に参加できる方が減っていき、3名から5名の参加となっていました。恵楓園自治会のホームページによると、7月21日現在の恵楓園の入所者数は160名となっています。
「命を守る行動」は最優先されるべきです。しかし同時に「挙国一致」で進めていく場面の危うさを、ハンセン病問題から問われてきました。今私自身、「誰々がコロナに感染したらしい」という噂話や、「ワクチンの接種は済みましたか?」という会話の向こうに、悲しむ人がいることを感じるこころが欠けてはならないと思います。
ハンセン病回復者の皆さんの「二度と自分たちと同じ悲しい思いをしてほしくない」という願いを受け取って、常々立ち止まって自らに問い、これからの歩みに繋げていきたいと思います。
療養所を訪ねて⑨星塚敬愛園
「真宗大谷派ハンセン病問題に関する懇談会」第5連絡会委員 寺本 是真
昨年の春頃より、新型コロナウイルス感染防止の点から在園者に会えない状況が続いています。そのような中、「らい予防法違憲国家賠償請求訴訟」勝訴後に園を退所されたお一人である竪山勲さんにお会いして、星塚敬愛園(現在八十六名在園)の現状と願いについて次のようにお話を伺いました。
◇ ◇ ◇
■星塚敬愛園の現状
コロナにより、全国13ヵ所全ての療養所が隔離状態にある中、「それでいいのか」という声が挙がっています。園内の行事、あるいは園外の方々との交流については、一切行われていません。コロナは大変な感染症です。平均年齢88歳の超高齢化のため、感染が一度起これば、院内感染を引き起こすのではないかという疑心から、園が開放されないのです。
過去、国立ハンセン病療養所は、89年間の長期にわたる隔離政策がありました。その隔離政策の壁をやっと突き破り、外の世界と交流ができる状況になりました。壁が取り払われたと思って20年が経ちましたが、その開かれた扉が今また閉じられてしまうことを危惧して止みません。
■過去から未来へ
「療養所の1年は社会の10年以上」、この言葉は非常に重く感じます。らい予防法の廃止があまりにも遅すぎました。その後、「らい予防法違憲国家賠償請求訴訟」を提訴した時には80歳を越えていました。もっと早く、らい予防法が廃止になり、勝訴判決を勝ち取ってから、何十年か生きる人生があってもよかったと考えています。まるで、ひと夏の蝉のようです。短いつかの間の自由を得たと思ったら、このコロナ騒ぎに直面しました。
全国で三桁もの方が園へ再入所しています。病歴を明かせないため病院に入院できない人や、老人ホームに入所しようとしても後遺症が明かせない人は、尋ねられてもリュウマチと偽って生きています。共同生活しようとしてもできないため、最後にはハンセン病療養所に再入所するのです。これが、ハンセン病療養所から退所した人たちの実態です。
社会復帰は皆さんと共生するということです。その共生とは、病歴が何であろうが付き合える社会でなければなりません。超高齢化の中、一刻も早くハンセン病に対する偏見、差別というものを取り除かない限り、人生というものは帰ってこないのです。
今般のコロナ政策は、社会防衛論が展開されている強制隔離と変わらず、医療の中に社会防衛論があってはなりません。今これからの社会との交流・共生、それを目指している最中のコロナ騒動です。この病気の対策の為に、足踏み状態どころか後退しています。「社会復帰とは言っていない。退所はしたけれども社会復帰じゃない」と言いたいです。
◇ ◇ ◇
ハンセン病問題を「過去のこと」「終わったこと」にしないために、自分に何ができるのか考え、関わっていきたいと思います。敬愛園在園者の高齢化に伴い、語る方も少なくなっていく中、次の世代にどう伝えていくのかが課題です。
真宗大谷派宗務所発行『真宗』誌2021年10月号より