節目-『ともしび』創刊号から七十年
(松金 直美 教学研究所研究員)

本誌『ともしび』は一九五二(昭和二十七)年、高倉会館(京都市下京区高倉通六条上ル)の創立三十周年にあたり、会館誌として創刊号八月号が発刊されたことにはじまる。そのため二〇二二(令和四)年八月号の本号は、創刊号から七十年の節目にあたる。
高倉会館は、一九二三(大正十二)年の立教開宗七百年に向けて取り組まれた記念事業の一つとして設立されたものである。旧高倉大学寮の講堂を会館の様式に改築し、周囲の構造を新たにして時代的設備を設け、特殊講演会などの会場として計画された(「立教開宗七百年を迎へて―宣伝の三要綱と紀念事業の概要―」『宗報』一九二一年十月号)。そして一九二二(大正十一)年五月二十三日に開館されたのち、現在にも続く日曜講演や親鸞聖人讃仰講演会の会場(二〇一五年七月以降は「真宗教化センター しんらん交流館」)として用いられてきた。
高倉会館は、高倉学寮を淵源とする学場の講堂「貫練堂かんれんどう」を「聞法の道場、、、、、高倉会館」としたものであり(山名義順「貫練堂随筆」『ともしび』第二号九月号)、「この講堂を中心として伝統の生命を伸張し、開展すべき使命を負びている」(「発刊のことば」『ともしび』創刊号)と、当時の編集者は受け止めている。
来年二〇二三(令和四)年には、「宗祖親鸞聖人御誕生八百五十年・立教開宗八百年慶讃法要」を迎える。この立教開宗を記念する法要が初めて勤修されたのは、実は百年前の一九二三年のことである。親鸞聖人による『教行信証』の述作が一二二四(元仁元)年であり、それをもって「浄土真宗」を開宗したという認識が、近世から近代にかけて次第に整えられていったことに由来する。
このように立教開宗の年次を定めて歴史的意義が見出され、それを機縁として時代に相応しい聞法の場が模索されてきた。そして高倉会館の創立三十周年という節目に、本誌『ともしび』が発刊され、そのよろこびと希望が多くの師友から寄せられたという(山名義順「貫練堂随筆」『ともしび』第二号)。会館に集う人びとのみならず、その読者にも聞法の機会が開かれていくことになったのである。
「ともしび」という題は「無明長夜むみょうじょうや燈炬とうこ」(『正像末和讃』聖典五〇三頁)によったものである。愚かなものの心の暗さが「無明長夜」、その無明を破って人間であることの愚かさを照らす弥陀の本願が「燈炬」、つまり「ともしび」にたとえられている。それは念仏者を摂取して、その行方を照らすものであるという(金子大榮「無明長夜の燈炬」『ともしび』創刊号)。
創刊当初の編集者は「この会誌が不滅の燈炬としてすこやかに育成するよう念願してやまない」(「発刊のことば」『ともしび』創刊号)という。私は二〇一四年十月に教学研究所へ入所して以来、この『ともしび』の編集を担当してきた。『ともしび』創刊号から七十年を迎えて、伝統されてきた聞法の機縁を、編集を担う一人として私が大切にできているか、聞法の姿勢を正す節目としたい。

(『ともしび』2022年8月号掲載 ※役職等は発行時のまま掲載しています)

お問い合わせ先

〒600-8164 京都市下京区諏訪町通六条下る上柳町199 真宗大谷派教学研究所 TEL 075-371-8750 FAX 075-371-6171