災禍の夏
(御手洗 隆明 教学研究所研究員)

この夏の日本は新型コロナ禍第二波に加え、豪雨の災禍に遭った。「令和二年七月豪雨」は九州から東北に及ぶ地域に記録的な大雨をもたらし、死者は九県で八十二人に及び、二〇九の河川が氾濫した(日本経済新聞、本年八月四日)。
 
近年の九州は北部を中心に自然災害が相次ぎ、その傷は癒える間もなく、熊本・大分地震(二〇一六年四月)で被災したJR豊肥線もこの八月に全線復旧したばかりである。今回も「線状降水帯」の影響を受け、四日に九州南部の熊本県人吉地方に始まった記録的豪雨による水害は、中部から北部へ拡大した。
 
熊本県の人吉・球磨地方は二〇一七年に「隠れ念仏・真宗開教」の調査で訪問した地域である。下流の八代市から人吉盆地をへて上流の市房ダムに至る球磨川水系には、隠れ門徒ゆかりの真宗寺院が点在する。報道の映像は浸水した人吉説教所跡地付近を映し出す。お世話になった方々の安否をただ気づかうしかなかったが、大谷派有志はこの直後より、新型コロナウイルスの感染を警戒しながら災害ボランティアとして活動を開始していた。
 
大分県の旧日豊教区大分組は、これまで比較的被災を免れていた地域であったが、久大本線の寸断や大分川の氾濫など昭和以来の災害に遭い、住民四人が避難途中に川へ流された。大雨が降ると山が水を噴く。古い記憶が蘇った。


 
ここは筆者が盆参りに歩く地域でもある。山間やまあいを縦横に走る用水路は越水と崩落した土石により水が溢れ、平地部の線路沿いは床上・床下浸水に遭った。山間部では随所に斜面崩落があり、地震に強いとされている竹薮も表土流出で横倒しになり、また近年開かれた道路には崩落が目立った。行政の防災工事の遅れへの怒りを口にする住民もおり、平成の大合併で行政の目が届きにくくなった影響は続いていた。
 
人的被害が少なかったためか、報道されることはなかったが、門徒住民からは目に見えない被災など災害当事者としての声があった。災害時に限らず、地元の声は寺院に集まってくる。これまでも寺院の多くがその声を記憶し、伝えていく役割を担ってきたことを思い起こす。
 
今回の大雨で寺院や家屋の多くが土砂の直撃を免れたのは偶然に過ぎないのだろう。豪雨被害とコロナ禍のなか、いつものように盆の荘厳で迎えてくれた門徒宅を歩きながら「自分がこの災害に遭った時に何ができるのか」と自問自答を続けた。この六月に発行された真宗大谷派ボランティア委員会編『ご門徒さんと考える〈寺院〉のための災害対策ハンドブック』にその手がかりがあることを期待したい。

(『真宗』2020年11月号掲載 ※役職等は発行時のまま掲載しています)

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