寺院葬を始めた経緯
岩手県の中西部に位置する花巻市に建つ正法寺。寺院葬の取り組みについて、小原勇哲住職からお話を伺いました。
「先代住職の代に庫裡を建て替えた際に、お寺で同朋の会や葬儀ができるようにということで「正法寺同朋会館」を新設しました。元々家での葬儀が多い地域だったのもあり、自宅では広さの面で難しい時に利用できるようにということを考えてのことでしたが、当時の葬儀件数はあまり多くはなかったですね」とご住職。
お寺での葬儀については副住職として寺院に関わっていた2013年から事業計画をとおして本格的に呼びかけを始めたそう。その後ご自身が住職を継承した2018年以降はホームページやパンフレットをとおして臨終期から火葬までの心構えを伝えることを始め、寺院で葬儀をという声も増えたそうです。
「特に過疎高齢化が進む地域のご門徒さんも多く、経済的事情を抱える方もいらっしゃるため、式場等の葬儀にかかる負担が少ないというのは大きいと思います。お寺に野卓(祭壇)があるので、葬儀社さんには設営や式の進行等などで協力してもらうことが多いですが、ケースによっては葬儀社さんと話し合って必要最小限の範囲内で協力をお願いしています」
他にも、色々な理由から時間をおいてから葬儀をするケースや、喪主さんとご住職の2人で勤める形での葬儀にも対応されたことがあるそうでした。いずれの場合であっても、きちんとした場作りをして、儀式の重みをもたせることを心がけているそうです。
日常の延長として
寺院で葬儀を勤めるメリットについてお尋ねしたところ、出棺をするまで一旦自宅に安置できるということが、選ばれている理由だろうと述べられました。
「自宅から出棺、そこから本堂にお連れして葬儀を勤め火葬に向かうという流れの中で、出棺をするまで一旦自宅に安置できるということが、ご遺族の心情を考えると大きいことだと思います。葬儀式という非日常の中に投げ出される前に、自宅という日常の空間に身を置き、その延長線上として寺院があり、生活の中で儀式が勤まることの大切さを感じています」
ご遺体が自宅に安置されることで故人を悼む時間が作られ、亡き人とご遺族が過ごした場所で色んな思い出が想起されていきます。交流の中で後の世代も想いを受け継いでいき、人とのつながりが寺院葬によって回復されていく姿から、人生を振り返る場所という意味でも地域社会の重要性を感じているそうです。
一方で、利便性を考えるとどうしても他の施設の方が優れていると感じることもあるそうです。「世代が変わっていけば、費用がかかっても使い勝手が良いものにメリットを感じる人も増え、今後地域の外で生まれ育った世代は離れていくのではないか。過疎化が進む地域であるからこそ、つながりを感じられる場所を守れるよう努力しています」と語られました。
寺院を「地域資源」として
寺院葬以外にも、小原住職ご自身が福祉関係で仕事をしてきたこともあり、何かあった時に手を借りやすいような、コミュニティを重視した寺院ということを念頭に活動されています。災害が起きて避難勧告が出る前から集まれる場所として、寺院を「ゼロ次避難所」と名づけて開放したり、カフェコーナーを常設して法事や御講の後に休んでいけるような場所を作ったり。「どうぼう倶楽部」という名称で、写経にキャンドル作り、笑いヨガや動画鑑賞など自由に出入りできるような遊びの場も提供しており、そこに参加された方から出た言葉が教化活動のヒントになることもあるそうです。
「教学や伝道といったことはもちろん外せないけれど、それがどう自分たちの生活や生きていくことに絡んでくるかを、広がりのある地域社会の中の寺院として伝えていければ」と想いを語られていました。
正法寺HP⇒https://www.shoboji-otaniha.jp/
(東北教区通信員 藤原了)