2025年8月9日、長崎市にある九州教区長崎組長崎教会にて原爆投下から80年を迎える「非核非戦法要」が厳修されました。長崎市は午前中、大雨に見舞われたものの、法要が始まる午後には晴れ模様となりました。猛暑が続く中、150名を超える多くの方が参集し、会場に入り切らない参詣者は外に設営されたテントで汗を滲ませながら聴聞されました。


当日は13時から「非核非戦」の碑の前で勤行があり、その後教会本堂で開会式が行われ、信國眞一九州教務所長の挨拶に続き、読経が勤まりました。14時10分に「非核非戦のつどい宣言文」を共に読み上げた後、映画監督の森達也氏による講話が行われました。


森氏は広島と長崎に落とされた原子爆弾を解説し、アメリカの原爆投下についての世論調査の記事を引用し、現在では原爆投下が正当ではないと見なす回答が多く、これはアメリカ国民がそのように教育されてきた結果であると語りました。しかし、アメリカ国内での核を題材としたドキュメンタリー映像作品を観てもわかるとおり、戦後しばらく続いた核兵器への認識の甘さが、核抑止論へ発展していったとも語られました。
続けて、ミーン・ワールド・シンドロームという言葉を紹介。これは、暴力的なコンテンツにさらされた視聴者は恐怖心や不安、悲観、警戒心をつのらせ、世界は危険であると信じ込んでしまうという人間の思考を指す言葉だそうです。それに関連して森氏はオウム事件について話を展開。当時のテレビ局の方針や取材について紹介されました。高い視聴率の獲得を目指し、どのメディアも刺激的な情報を求める中、森氏が取材した一般の信者への密着取材は「普通の人」過ぎて却下されたとのこと。メディアが求めたイメージとは「凶暴凶悪」「洗脳されて理性や感情を失った危険集団」であったのです。この報道によって、恐怖心をあおられた結果が警戒の強化、テロ対策の強化へ繋がっていったと語られました。この意識が国家的規模にまで広がっていくと「集団的自衛権」になっていくと指摘され、自衛という言葉を使えば何でも許されてしまう危うさについて森氏が「人間には闘争本能があるから戦争がなくならないというが、違うと思う。逆です。人間には自衛本能があるからです。だから戦争はなくならない」と仰っていたのが印象深かったです。不安でみんながまとまりたくなる、一人が怖くなると、集団という群れとなり防備を固めるとのことで、森氏はこの「群れ」について人間の祖先である猿人や羊、小魚等を例えに解説し、集団化によって同調圧力が強くなったり、強力な誘導者が必要になったりして、自分の意志がだんだん消えていき、集団の意識に身を任せることになってしまうことへの危うさを語られました。人は群れるからこれだけ発展してきた恩恵もある一方、危うさもあるということについて「集団は暴走します。誰かが走ったらみんなが走ります。なんで走ってるのかわからない。でも合わせなきゃいけない。その結果、向こうから似たような集団が走ってくるかもしれない。ぶつかります。戦争ですね。あるいは、集団の中から違うものを探し出して排除しようとするかもしれない。虐殺です。僕は人類の過ちはきっとこうして起きるんだと思います」と強調しました。

ナチス・ドイツによるアウシュビッツやクメール・ルージュの問題から現代の内戦へと話を展開され、虐殺の悲惨さとは裏腹に、兵士の一人ひとりは一人の人間であり、戦争がなければ普通の人だったかもしれないことを忘れてはならないと森氏は指摘されました。「狂暴で凶悪だから人を殺すのではない。集団の中にいるとそうなってしまう。自分は狂暴で凶悪な人ではないという考えが、所属する集団や国の加害を認めたくないという心理に繋がっていく。でも、そういう考えの人も集団の中にいたら、加害者になっていたかもしれない。人間は集団化する生き物だから、集団の中でみんなと同じように動かないと自分が異物になってしまう。だから、周りと同じように行動する」。森氏はこのことについて親鸞聖人が既に800年前に言い当てたとして、「さるべき業縁のもよおせば、いかなるふるまいもすべし」と『歎異抄』のお言葉を引用し「すごいですよ。僕は業縁というものを環境設定だと解釈します。人は、その環境になったら何でもしちゃうんだよって。集団の中で埋没しないこと、個を保つこと、主語を一人称にすること、それを少し心がけるだけで大分違うと思います」と受けとめを述べられました。
最後に、広島の原爆慰霊碑に刻まれた碑文「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」を紹介し、「これは私達すべてですよ。僕らはもう過ちをしませんという誓いをここに述べてるわけです」と語り、8月9日に長崎に来られて良かったと謝意の述べられつつ講話は締められました。
原爆80年という大きな節目の中で、これまでの歩みを振り返りつつも、あらためて自身を問い直していく場となる、よいご法縁に恵まれたと思います。
九州教区では9月7日に原爆80年の事業として「非核非戦のつどい」を開催します。原爆投下の地、長崎にて、有縁の方々と共に、その課題に向き合うつどいが開催しますので、ぜひご参加ください。一人でも多くの方のお参りをお待ちしております。
(九州教区通信員 奥村誓至)
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