◆「思い込み」が自らの学びを妨げる
四国教区では、部落差別・靖国・社会的差別問題の学習や取り組みを毎年続けています。しかし、熱心な取り組みが学習内容の向上につながる一方で、「この問題ならあの人に任せればいい」といった、ある種の“専門家”を生み、いつしか、なぜそうしたことが必修事業として取り組まれているのか、各々に問われなくなっていました。
そして、解放運動特別指定伝道研修(解放特伝)の取り組みに向けた準備を進める中で、お聖教などを理知的に理解することだけに固執する、あるいは教学と社会問題は関係ないと眼を閉ざすような、「思い込み」に捉われた私たちの姿勢が社会的諸課題を学ぶ妨げになっていることに気がつきました。そこで、「真宗門徒としての自らを問う」という一つの課題を全体に共有していくことに着眼し、取り組みを進めていくことになりました。
◆本山指定解放運動特別指定伝道研修(解放特伝)
そうした現状を踏まえ、「念仏と私と社会的差別」をテーマに、2012年より2年間に亘り、解放特伝に取り組みました。全5回の講師を梶原敬一先生にお願いし、教区教化委員会研修部各班の発題(疑問)を受けて、梶原先生から課題に応答する視点を提起していただくかたちで講座がすすめられました。
「難しくて、ついていけるか不安だ」というご意見もありましたが、四国四県より、毎回対象者の7割以上の方にご参加いただけました。
◆不安・責任・期待
解放特伝の総括の際、意見交換と聞き取りの場が設けられ、なぜ多くの方が解放特伝に参加されたのかという問いに、様々な意見が寄せられました。その中で、自分でもはっきりしない中で必修事業(部落差別・靖国問題)に取り組まなければならないという不安と、そんな状況を何とかしていきたいという責任が、解放特伝に参加する意欲に繋がったことが明らかになってきました。
閉塞状況の中にあっても、解放運動の課題を積極的に受けとめるとともに、教区内で広く共有していきたい。そのような意欲を持った方々が、教区内各地から見出されてきたことが、解放特伝に取り組むことの大きな成果であったと思いました。
◆家庭で学習する習慣を身につける
解放特伝を契機として見出されてきた方々にも参画していただきながら、2014年度から3年間に亘って全6回の研修部学習会を開催することになりました。教区や組でこれまで課題になっていたことを整理し、解放特伝の中で梶原先生が示された視点を「講義録」に尋ねながら、改めてそれらの課題と向き合い、教区内で広く様々な方々に手に取っていただけるようなパンフレットにまとめることを目指します。
特に重要なのは、パンフレット作成の作業を進めるプロセスが、図らずも重要な課題共有の共同学習になっていることです。各自が疑問に思っていることの「応え(課題に向き合う視点)」を持ち寄り、共有していく作業的学習会を通し、各々が家庭で学習する習慣を身につけることが願われています。
◆梶原先生が示された視点を共有する
①教区や組、自分の課題となっている「問い」に、梶原先生がどのような視点を示されたのか。各自が宿題として、毎回「講義録」の指定箇所を読み、事前に「問応記入シート」に抜き出します。話し合いを進めやすくするため、必ず頁数も記しておきます。
②各班に分かれ、お互いの「問応記入シート」の内容をすり合わせます。付箋に書き出したり、記入してきたシートを切り貼りしたりして、フレームワークのような形式で班毎に更にまとめます。
③班毎でまとめたものを全体で発表し、課題や視点を共有します。
④当番班が全班のシートを回収し、一枚のシートに要約します。
◆話し合いの主役になる
2回の研修部学習会を終えて感じるのは、宿題を持ち寄ることで、各々が自信をもって話し合いの主役になれるということです。また、梶原先生が示された視点が参加者全体に共通した“手掛かり”の一つとなるため、単に私見を述べあって拡散したままで終わるのではなく、その“手掛かり”から課題整理のポイントを確かめながら、重要な課題が凝縮されつつも広く様々な方々と共有できるような形へと収束するような学びが進められています。
この共同学習のプロセスは、これまでの学習の場では講師が示された学習のポイントの良し悪しだけを論じて、課題の本質を聞き開くような学びにならず、結果として単発的に流れてしまうことが多かったという教区の方々の反省から見出されてきました。今回の取り組みによって、視点の共有や傾聴に重きを置くことにより、自分一人の思い込みや先入観に捉われることなく、課題に向き合う主体性を持ちながら、多くの人々とともに課題の本質を見出し共有していくような、継続的な学びへと質的転換がはかられてきたように思えます。
今後、共同学習を通じて整理されてきた「問応」をまとめたパンフレットを作成し、各組学習会や寺院教会での教化の場で活用いただく中で、教化の全体に通底する「人間解放」の課題が広く共有されることが願われています。