常德寺
常德寺
伝道掲示板
悩めるって事はあんた幸せなんやな
海で溺れそうになってる時に悩むか?
悩めるって事はしあわせなことなんや
  (ジャズシンガー綾戸智恵)

運動場「せまいなあ せまいなあ」と言ってみんなで遊んでいる
朝会のとき 石を拾わされると「広いなあ 広いなあ」と拾っている (作者不明)

 1582(天正10)年、織田信長軍に対峙した上杉軍の最前線、魚津城。その城下町に当時から多く残る真宗寺院の1つ、常德寺へ伺いました。住宅街の中に建つ常徳寺の掲示板には、参道奥にある本堂を知らずとも掲示板だけは知っている人もいるほど印象強い言葉がいつも並んでいます。

 もともと長浜教区の寺で生まれ育った住職の北條秀樹さんが20代で妻子を伴い、縁あって常德寺に入寺されたのは1986(昭和61)年。その際に掲示板を現在の通り沿いへ設置、最初は行事案内や宗派から配布されるポスターを貼る程度だったそうです。

 やがて前住職の代わりに法要などで説教を勤めるようになった頃、あるご門徒が「さっきの言葉で力をいただいた」と話されたのがきっかけになり、仏法伝道の1つとして掲示板が持つ力をいま一度見直されたとのこと。

 それからはさまざまな情報や旅行先などで最も共感できて伝えたい言葉を拾い集め、最初は住職自ら手書きだった掲示物もデジタル世代の若者からお年寄りまでスッと心に入ってほしい、という配慮から難解な語句には注釈を、漢字にはルビを、フォントは親しみやすいものを、といった工夫をされ、現在はあえてパソコンで作成し毎月2回更新、記録したファイルも数え切れないほどになっています。

 掲示板の前では通り掛かりの人がメモを取ったり、それまで寺に縁のなかった人が話し掛けてくださったり、隣接する中学校の生徒達が掲示板を見て声に出してうなずいてくれるなど、その反応を直接受け止める大切なご縁になっていて、言葉が人を温めたり傷付けたりすることを強く感じられるそうです。

 「私達は門徒さんの寺を預かる身、掲示板の更新は待ったなしですが、時代も人ももっと速いのでキチンと応えたい、100人に1人でも共感する人がいてくださるなら、生涯続けます!」と語ってくださった住職は10年ほど前から毎年9月に東京などから落語家を寺へ招き「落語ワンダーランド」と題したイベントを企画。さらに「門徒さんと寺のつながりを確認したい」という永年の思いから、本堂の修復新装を行い今年5月23日、本山より大谷浩之鍵役御参修のもと、宗祖親鸞聖人750回御遠忌お待ち受け、門信徒物故者追恩法要が盛大に営まれました。

 そしてその入口の掲示板は、時代の波に揺れ惑う私達へ何かを呼びかけるかのように今日も立っています。

(富山教区通信員 佐賀枝 立)

 
『真宗』2010年7月号』「お寺の掲示板」より

ご紹介したお寺:富山教区第12組常德寺(住職 北條秀樹)
※役職等は『真宗』誌掲載時のまま記載しています。