伝道掲示板
ひとつことを聞きて、いつも、めずらしく、初めたる様に、信のうえには、有るべきなり
『蓮如上人御一代記聞書』
緑淨寺には約8年間、住職がいなかった。治田裕臣さんは31才。緑淨寺に入寺されたのが2010(平成22)年1月、住職の任命が同年3月、就任披露の法要をして1年が経つというのだから、本当に何もかも新たにスタートされている住職である。
今回、取材の申し込みをした時も、「何もしていなくて…」とおっしゃっていた。住職のご実家は滋賀、お連れ合いは大分の出身だという。前職中、新潟の三条でご結婚され、双子の男の子と共に大阪に転勤された後、鳥取の緑浄寺に入寺された。不思議なご縁である。
緑浄寺に来られた「決め手」を聞いてみた。「ご門徒さん方が皆さんウェルカムだったことですね」と人柄がにじむ笑顔に、きっと大歓迎だったに違いないと確信する。もう1つ、「ずっと、いつかはお寺をやっていきたいと思っていたんです」と話されたので、「お寺をやるということはどういう事ですか」と聞いてみた。「ご門徒さんや近所の人がいつもお寺に出入りしていて、その中で育ってきたので、皆さんがお寺を支えておられることを感じるんです。自分も先達が守ってこられたものを引き継ぎたいと思いました。お寺に集う人は皆親鸞聖人のご門徒だと思うんです。私はそのお手次の仕事をしたい」とのこと。では、掲示伝道については。
「直接、自坊の掲示板の話ではないのですが、あるご門徒さんが『10年以上前の大阪出張時に、夜飲み屋街で見たお寺の掲示板の言葉が今でも忘れられない』と話されました。掲示伝道の大切さを再確認するとともに、そんな誰かの一期一会になるような掲示板にしたい」との思い。
掲示板自体は3年前にご門徒の働きで立てられた。本山や各教区から発行されている掲示物・出版物を並べられ、「本山や教区が発信しているものには本当にわかりやすくて良いものがあるのですが、ご門徒さんまで届かないこともある。今はなるべく、〝これは〟と思うものを掲示しています。本当は自分で書かなくてはいけないのですが・・・」となぜか恥ずかしそう。その理由は?「実家の掲示板は、いつもおばあちゃんが書いていました。住職は書とお話とお勤めができたら務まるというのですけれど、私は全部苦手で、いつかは自分で書きます」。
治田住職には他にもやりたいことがたくさんある。「報恩講の座数を増やすこと。また、婦人会・子ども会も始めたいと思っています。この宗派を支えてきたのはお講です。そのお講を大切にやっていきたい。今は何もできてないのですけれど・・・」できていなくて恥ずかしいとおっしゃる治田住職の言葉の合間に、とても力強く響く言葉がある。逞しく大地に根を張るといえばいいだろうか。枝葉に執われないその姿に、住職道の肝を見る思いだった。
(京都教区通信員 藤枝良太)
『真宗』2011年12月号「お寺の掲示板」より
ご紹介したお寺:京都教区因伯組緑浄寺(住職 治田裕臣)
※役職等は『真宗』誌掲載時のまま記載しています。