伝道掲示板
■御卒業おめでとう
御恩返しは
出来なくても
受けた御恩を
忘れぬように
(先代住職・義晃)
■怒りは
心を傷つけ
悲しみは
心を洗う
(先代住職・義晃)
福島県相馬市。福島県北部の海岸に沿った地域で、江戸時代には相馬藩の城下町として栄えたところでもある。今回紹介するのは相馬市の中心部にあるお寺、正西寺だ。住職の八幡義宣さんと坊守の則子さん、そして娘の祥子さんにお話を伺った。
正西寺の掲示板は山門の入口すぐ傍にある。掲示伝道は先代の住職から始められたが、中断した時期もあったそうだ。しかし、平成17年ご門徒から新しい掲示板を寄進していただいたのがきっかけで再開した。今では1カ月に1度くらいのペースで更新している。
掲示する言葉は、主に坊守さんが日頃感じている事からいくつか案を出し、ご自身で選定しているそうだ。掲示板の前をよく中学生が通るので、中学生でもわかるように平易な言葉を選ぶように心がけているという。
「中学生をとおして親御さんにもその言葉に出会ってほしい。そして1つでも心に留めてくれたら」と、坊守さんはその願いを教えてくれた。
先代からの言葉が数冊のノートにまとめられてあり、それを見せていただいた。どれも私たちが日常使う言葉を用いたものばかりでとても読みやすい。読み手を意識して選ばれている内容ばかりだ。
「お寺の山門は中々くぐりにくい。この掲示板をとおしてもっとお寺を身近に感じてほしい」
と住職は話す。
現在、掲示板には法語とは別に、放射線量の値を昨年の10月上旬くらいから掲示しているそうだ。毎日山門の前で朝と夕の2回計測し、朝の値を掲示している。この時の値は0.3マイクロシーベルトだった。
「現状からリスクを少しずつ下げていく。現状を知らない人はリスクを下げようがないから、現状を知ってもらえたら」
と、祥子さんが始めた動機を教えてくれた。また放射線量の測定値の他にガイガーカウンター(放射線量測定器)の貸し出しの張り紙もあった。東日本大震災以前は掲示板一面に法語を掲示していたが、今ではその半分が放射能関連のものに変わったそうだ。
震災直前の法語は「御卒業おめでとう 御恩返しは出来なくても 受けた御恩を 忘れぬように」というものだった。学生に向けて書かれたものだったが、「震災を受けてあらためて『御恩』という言葉が響いてきた」と坊守さんが話されていたことが心に残る。
身に起きたことをとおして同じ言葉に2度出会う。今までは何気なく見ていた言葉が、現実に直面してよりリアルに響いてくるということがある。そういう言葉との出会いが掲示伝道なのかもしれないと感じた取材だった。
(仙台教区通信員 久保田信立)
『真宗』2012年1月号「お寺の掲示板」より
ご紹介したお寺:仙台教区浜組正西寺(住職 八幡義宣)
※役職等は『真宗』誌掲載時のまま記載しています。