伝道掲示板
過去や未来に生きる
ことより
二度と帰らぬ
今を生きたい
(『今を生きたい』松山千春)
四つの掲示板
東京都新宿区、都心方面から東京都庁へ向かう都道沿いに專福寺は建っている。開基は一六三一(寛永八)年。当初は江戸城付近の市谷にあったが、1645(正保2)年に江戸城の外堀の工事に伴い、現在の新宿の地に移転した。境内には、幕末から明治時代にかけて活躍した浮世絵師である月岡芳年の墓がある。
專福寺の掲示板は都道に面した山門の横、本堂の横、墓地の入口、そして側道に面した裏門の横の計四ヵ所に設置されている。住職の二階堂行壽さんに、掲示板に載せるために書き留めてきた言葉のメモを見せていただいた。経典や宗門の先師の文言にとどまらず、他宗の僧侶の言葉、小説やアニメの登場人物のセリフ、ヒットした曲の歌詞、著名な人物の名言など、一見すると法語と関係のないような言葉も多々ある。内容も傾向が決まっているわけではない。
「真宗は言葉の宗教だと教えていただいています。真宗の言葉に限らず、他宗や他の宗教の文言でもいい。掲示板の前で立ち止まって様々な言葉にふれることで、宗祖が出遇われた真実にふれる手掛かりになればいいと思っています」と二階堂さんは話す。
四ヵ所ある掲示板ごとに大体のテーマを定めており、山門横にある掲示板は宗門の先師の言葉、本堂横の掲示板は経典や宗祖の文言、墓地の掲示板はお墓参りに来た方へ向けた言葉、裏門横にある掲示板は宗門に限らず「人の生き方」を考えるきっかけとなるような文言、といった具合である。二階堂さん自身が感銘を受けた文言を、時代や世相に応じて掲示板を通して発信し、それを見た方に生き方について問いかけたいという思いがある。
それに対して、門徒さん同士で掲示板に書かれた単語を漢和辞典で調べて話し合ったり、山門前を通るタクシーの運転手に「掲示板を見ています」と声をかけられたり、歌詞を掲示した際には若い方に掲示板の写真を撮られる等と、様々な反響があったそうだ。
二階堂さんはさらに掲示板を増やしたいという。「今の掲示板は年間で7、8回変えているけれど、思いついた言葉をもっと気軽に発信したいです」と話された。はじめは他の寺院で実際に設置している「黒板でできた掲示板」を採用しようとしたが、文字が雨で簡単に消えてしまうので「ケースで保護したホワイトボード」の設置を検討している。また、掲示板の文言を解説したパンフレットを作成したり、それをネット上で配信することも視野に入れる等、言葉を伝える方法を考えている。
(東京教区通信員・平松正宣)
『真宗』2021年1月号「お寺の掲示板」より
ご紹介したお寺:東京教区東京四組專福寺(住職 二階堂行壽)
※役職等は『真宗』誌掲載時のまま記載しています。