療養所を訪ねて②東北新生園
「真宗大谷派ハンセン病問題に関する懇談会」第1連絡会委員 磯崎信光
仙台教区内には、宮城県登米市にハンセン病療養所東北新生園があります。教区では、教区教化委員会社会部が企画し、毎年、久保瑛二自治会長のお話を聞かせていただく学習会を行っています。また、園の公開行事にあわせて教区内に案内を発送し、紹介と参加の呼びかけを行うなど、つながり続けていくための取り組みを行っています。
現在、新生園では将来構想に基づいて、病棟も近い新しい集合住宅型の居住棟が完成しています。そして、ほとんどの入所者の方が、これまでの園内に点在していた長屋のような居住棟から、集約された新しい居住棟に移って生活をされています。
現在入所されている方は、四十四名(二〇二一年五月一日現在)となり、十数年前に私が園を訪ねた時から半数以下になっています。旧居住棟を取り壊した広大な空き地に、この園でたくさんの方が生活していたということを思い出してほしいという願いから、千本を目指して桜の苗木の植樹が進んでいます。開園以来、園で八百数十名の方が亡くなられたそうですが、その方々の人数分までは進んでいるようです。まだまだ小さいですが、花を付け始めており、今年は陽気のせいか桜が咲くのも例年よりも早かったそうです。
例年は教区の方々に呼びかけて、春に学習会を実施していました。千本桜が咲く時期に合わせて園を訪問し、久保自治会長のお話を聞いた後、入所者の方向けの畑があった場所を、地域の方に使ってほしいと願い整備されたパークゴルフ場で、ゲームを体験して帰るような日帰り日程のものです。しかし、昨年も今年も、周知のように新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、園での園外の方の受け入れも公開行事も中止となっており、訪問することはかないませんでした。
新生園でも他の園と同様、入所者の方の平均年齢はかなり高齢化していることと、また教区側でもこれまで入所者の方と直接交流のあった方々の世代交代が進んでいるということが喫緊の課題だと考えておりました。そこで、近年はこれまでハンセン病問題への関わりがなかった方、入所者と面識のなかった方々に特に呼びかけを強化し、新しいつながりが作れないかと担当者で知恵をしぼっていたところだけに、この新型コロナ下での交流の途絶は大きな痛手だと思っています。
オンラインでの面会という試みも、これまで仙台教区と入所者の方々とのつながりがそれほど広く持てなかったこともあり、新生園においての実施には課題が多くありますが、すでに二年にわたって訪問できない期間が続いているだけに、園での環境が整備されているならば、活用できないかと考えています。
このように入所者の方の御歳や、教区の方にハンセン病に関する告知なども何も届いていなかった期間だと考えると、二年という時間の空白はあまりに長かったと、園との連絡・交流を担う担当者として、重く受けとめています。
ただ、大変な中ではありますが、全く動きがないわけではありません。宗派に関係なく新生園に関わっている支援者同士のつどいがあり、他の団体・宗教の方々の動きを聞いていると、この新型コロナ下であっても、様々な働きかけがされていました。例えば、ハンセン病の隔離政策のもとで起きた差別と排除が、現在ふたたび新型コロナ下で繰り返されていると感じる問題の共有、自治体や新聞への働きかけなど、動きが止まっていないことを知りました。
宗派内のつながりはとても大きなものですが、宗派内だけにとどまらずとも、同じく新生園に関わりをもち、ハンセン病問題に関心をもって活動されている方々とのつながりがあるということは、一つの問題に向き合う時にとても大切なことだということを、今のような制限された状況下で、あらためて感じさせられているところです。
療養所を訪ねて③駿河療養所
「真宗大谷派ハンセン病問題に関する懇談会」第3連絡会委員 境 広昭
駿河療養所には、岡崎教区教化委員会の同朋社会推進部会が窓口となって開催する「真宗講」というお講があります。その内容は、療養所敷地内にある礼拝堂で療養所入所者と教区からの参加者が一緒に勤行し、法話の後に茶話会をもつというものです。さらに、彼岸会などの際は、教区からの参加者は納骨堂への参拝も行います。一九四三年から毎月続いていましたが、昨年の新型コロナウイルス感染症が全国に拡大する中、現在は休止せざるを得ない状況です。
私も二年ほど現地に足を踏み入れることができていない中で、療養所の職員の方に電話およびFAXで、現在の療養所の様子をお聞きしました。
二〇二一年五月一日時点での入所者は四十七名。平均年齢は八六.二歳です。この人数は、全国に十三園ある療養所の中で四番目に少ない数になります。
昨年度まで駿河療養所の所長は邑久光明園と兼務でしたが、今年度は星塚敬愛園から来られた内科の北島信一医師が専属の所長に着任されました。「駿河会」(入所者からなる自治会)の希望がかなった形になりました。
医師の配置は、所長以外に、副所長(内科)、外科医長、歯科医長、歯科医師、内科医師がいます。これまでは、一般の方の診療も行われていましたが、現在、外来受診は中止されています。また、医師以外の介護や事務、施設管理などのスタッフは、総勢一五〇名ほどです。
この数字だけ見ると、手厚く、人員も多いように感じられますが、そうではありません。駿河療養所自治会「駿河会」会長の小鹿美佐雄さんは、入所者の高齢化が進んでいるため、ハンセン病の後遺症だけでなく、高齢による介護が必要な方が大勢居るので、看護・介護スタッフの増員を必要とされていました。施設の職員も同様に、看護・介護職員の不足を懸念されていました。
新型コロナ感染防止の対応としては、入所者との面会が制限されています。外部の方との面会はできる限り減らされており、面会する場合は面会室で行われています。建物内は、外部の人間は立ち入り禁止となっています。
駿河療養所は山の高台にあり、施設の入り口(山の麓)から実際の建物が集まっている場所にたどり着くまでは、約二キロの長さの進入道路(急な山道)しかありません。このため、昨年には施設内に、進入道路が寸断し、通行不能になるような災害が起きた場合の救急搬送用としてヘリポートが作られました。
先程述べた「真宗講」をはじめ、地元小学校との交流会などのイベントや、施設の名物になっている桜の一般公開も現在は全て中止されています。
国のハンセン病強制隔離政策が違憲であったと判断された「らい予防法違憲国家賠償請求訴訟」から二十年が経ちますが、ハンセン病療養所はいま、コロナ感染症蔓延状況により、また孤立したような状況になってしまっています。
入所者の高齢化が進む中、今後の療養所をどうしていくのかも含めて、「待ったなし」の議論と対応が必要です。
真宗大谷派宗務所発行『真宗』誌2021年7月号より