伝道掲示板
頭を下げても
頭は下がらない
愚かな身
人々の生活の中にある掲示板
雪が降り積もった冬が終わり、春の兆しが見え始めた三月初旬。明傳寺の取材に伺った。山門の近くに設置された掲示板には「自分の経験や自分の分別に腰をかければ人は魔になり鬼になる」との宗正元先生の言葉が掲げられていた。「自分で考えた言葉や、宗門内外の方々の言葉も掲示しますが、宗先生の言葉が多いかなぁ」と話す井上住職。一九八八年に宗正元先生が学長をされていた東京大谷専修学院で、一年間真宗の教えを道路に面した場所に設置された掲示板と井上住職学び、その後雲集学舎や友人が開く宗先生の学習会に足を運んだ日々が原点となっている。
井上住職は一九八九年に入寺し、二〇〇五年に明傳寺の第十三代目の住職に就任した。明傳寺は一九五六年四月十三日に、近隣の火災の飛び火を受けて本堂と庫裏が全焼。一九七九年に本堂を再建されるまで、前住職は大変な苦労をしながらもお寺を守ってこられた。住職就任から三年目の二〇〇八年、その火事の時に唯一焼けずに残った山門の近くに、掲示板を設置した。
「周りのお寺さんがしてやるから、うちもやってみようかなぁと気楽に始めてみたんやぁ」と話してくれる井上住職。十三年続けている伝道掲示は、月一回更新する。続けることは決して簡単なことではないが、会話のきっかけになればと願い続けてきた。
「わしらにも分かるように書いてくれよ~」と伝道掲示を読んだ町内の人から声を掛けられることもある。近くにご門徒のお宅は少ないが、掲示板の設置されている道は通学路になっていることや、近くに保育園があることから老若男女たくさんの人が通る道だ。「じぃーっと掲示板を見ている方や、掲示を見て「どういう意味や?」と聞いてこられる方。そこから会話のきっかけになるのが一番」と話してくれた。お葬儀や法事、お墓参りに来るご門徒だけではなく、広くたくさんの人に見てもらえる掲示板となっている。
明傳寺では同朋の会を継続しておこなっていたが、新型コロナの影響のために、現在は休止している。一度休んだものを復活させるのは難しいが、この掲示板で呼びかけながら、また同朋の会が開かれることを願ってやまない。
(山形教区通信員・橘 幸子)
『真宗』2021年6月号「お寺の掲示板」より
ご紹介したお寺:山形教区第十組(住職 井上雅之)
※役職等は『真宗』誌掲載時のまま記載しています。