石川県小松市を流れる梯川のほとりに來生寺はあります。かつては青森県に居を構える寺院でしたが、江戸初期の争乱によって焼失してしまったため、現在の地へと移り堂宇を建立したと伝えられています。境内には一切経が収められた転輪蔵のほか、山門には小松城二の丸で城郭門として使われていた素朴ながらも重厚感のある鰻橋門が移築されており、これらが來生寺の特徴のひとつとなっています。


來生寺の山門と住職の藤さん

住職の藤秀悟さんは小さい頃から絵を描くことが好きで、金沢美術大学で工業デザインを学ばれたのち、仁愛女子短期大学で四十年間にわたりデザイン教員として勤務されました。在職時に、僧侶でもある学長の講義で聞いた「正像末和讃」の言葉が心に残り、「若い世代や仏教に関心のない人たちにもわかりやすく伝えられるように、仏教の言葉と教えを視覚的に表現してみたい」と思うようになったそうです。それから藤さんは約四十年間にわたり写真・図・絵・文字で構成された仏教デザインパネルの制作を続けられています。


第1作目のパネルは絶対に捨てられない

第一作目は制作活動のきっかけとなった「正像末和讃」をテーマにした作品で、パネル上部には占い本のページがいくつも重なり合うように切り貼りされ、その上から硬く縛った縄が全体を覆うようにして描かれています。パネル下部には「かなしきかなや道俗の 良時吉日えらばしめ 天神地祇をあがめつつ 卜占祭祀つとめとす」の和讃が記されています。これは「自分の信じていることや信じたいことに執着するあまり、かえって自分自身を縛ってはいないだろうか」というメッセージを絵と言葉によって表現した作品となっています。


現在までに制作された作品は五十点を超えており、パネルの一部は本堂や庫裏の玄関に常時展示されています。また、作品が一定数たまると、本堂にて「回顧展」という個展も開催。今までにテーマとして扱ってきた言葉は『仏説観無量寿経』『歎異抄』「和讃」など様々で、中には原発問題や気候問題、社会情勢に対して問いを投げかける作品もあります。

今年の4月に開催された「回顧展」の様子

「次の作品ができるか不安になることもあります」と語る藤さんですが、お寺の行事や聞法会などにいらした方々と作品について話したり、法事やお講でパネルを用いて法話をした際の「作品に込められた思いを聞いて、実際に絵と言葉で見るとわかりやすかった」などの反響を原動力にして制作活動を続けられています。自分にできることを生かし、見る人の視覚に訴える教化活動を見せていただきました。

(小松教区通信員・松永 悠)


『真宗』2022年8月号「今月のお寺」より

ご紹介したお寺:小松教区第二組來生寺(住職 藤秀悟)※役職等は『真宗』誌掲載時のまま記載しています。