光景の継承
~2022年度ハンセン病問題交流研修会報告~

真宗大谷派ハンセン病問題に関する懇談会委員(小松教区)
/小松教区解放運動専門部会主査
佐竹 融

  

■はじめに

 小松教区と大聖寺教区では、2018度まで毎年合同で3月後半頃に香川県のハンセン病療養施設である大島青松園へ訪問し、交流研修会を行ってきました。内容としては、施設見学や回復者の方々の居宅訪問、懇親会の開催を一泊二日で行うというものでした。しかし、回復者の方々の高齢化に伴って懇親会への参加者も減り、職員の方からも「あまり回復者の方の負担にならないようにしてほしい」と言われ、年を追う毎に研修会の内容を変更してきました。例えば、夕方以降に行っていた懇親会も、時間帯のせいでなかなか出られないのではないかということで、職員の方の協力も得やすい昼の時間に変更しました。

 また、教区内からなかなか新しく研修会に参加する方も増えず、参加者の固定化という問題も出てきていました。少しでも参加しやすくするために、参加希望者に向けてハンセン病問題についての事前学習会を設けてみたり、参加希望者だけでなく公開性をもたせたものにしてみたりといろいろと工夫はしてみましたが、なかなか結果に反映されない状況でした。

  

■新型コロナウイルス感染拡大の影響

 そのように試行錯誤をする中で、新型コロナウイルス感染拡大によるパンデミックが起こりました。世の中全体が自粛ムードになる中、感染拡大防止の観点においても県外から団体で療養施設に訪問して回復者と交流することは事実上困難となり、2019年度の研修会は中止となりました。

 その後、リモート会議などが浸透していったこともあり、2020年度は オンライン上で大島青松園の方々のお話を聞くという形で研修会を開くことができました。しかし、ある程度の意見交換などはできましたが、全体的に意思疎通がスムーズにいかないままに研修会を終え、オンラインにおける研修会の難しさを知ることとなりました。

 一方で、 2021年度には台湾のハンセン病療養施設である楽生院において聞き取り調査をしている方々と大聖寺教区の方に繋がりがあったことから、「台湾におけるハンセン病問題」と題してオンラインにて研修会を開きました。オンラインだからこそできた交流であり、台湾においてのハンセン病問題の歴史を知る良い機会となりました。

 しかしながら、私が改めて感じたことは、現地に身を運んでこその交流研修会ではないかということでした。画面越しでは、何か言葉にできない体感の部分が抜け落ちているように感じたのです。

  

■2022年度計画

 上記の内容を踏まえて2022年度の計画を立てる会議では、できるだけ現地に赴いて研修会を開きたいが、それでも回復者との交流はやはり難しいだろうということを話し合っていました。そんな中、岡山県の邑久光明園や長島愛生園にはそれぞれ資料展示室や歴史館があるということで、それならばせめてそれぞれの施設見学だけでもできないかということになりました。

 両施設への交渉は、普段から両施設に関わりのある「真宗大谷派ハンセン病問題に関する懇談会(ハンセン懇)」の委員に相談しながら進めていきました。その結果、抗原定量検査を受けて陰性であれば、施設内の見学も回復者との交流も可能ということになりました。

 また、今回の事前の公開学習会では、邑久光明園の園長である青木美憲氏にオンラインにて講義をいただきました。施設に勤めている立場の方のお話を聞くことができ、研修会当日にもお会いできるということであり、とても有意義なものになりました。

  

■交流研修会当日

 研修会初日は早朝に大聖寺教務所を出発し、12時には邑久光明園に到着しました。抗原定量検査を受けた後に長島愛生園へ向かい、学芸員の案内のもと歴史館と愛生園内を見学し、真宗会館にて回復者の鈴木幹雄氏と交流会を行いました。夕方には宿泊場所である邑久光明園のかえで会館に移動し、鈴木氏と邑久光明園園長の青木氏をお招きして、食事をしながらの交流会を行いました。

 交流会の中で私は鈴木氏に「これまで何年も交流研修会に参加してきたが、結局私は何ができるのか、何をしたら良いのか分からない。こうやって訪問する人に対してどんなことを願うのですか?」と質問をしました。鈴木氏は「ここの空の色を忘れないでください。それだけです」と答えられました。その時、私は交流研修会にはじめて参加した日のことを思い出しました。

 2013年度の交流研修会において、数人の回復者の方々と研修会の参加者が和気あいあいとしていた中で私はうまく馴染めないでいました。そんな私に、一緒に参加していた大聖寺教区の大先輩にあたる方が「この光景をとにかく忘れないでくれ」と声をかけてくれました。

 鈴木氏のいう・空の色・と、先輩の言っていた・この光景・は違うのかもしれませんが、実際に身を運び、場所を感じ、人と会うことの大切さを伝えてくださったように思います。

 研修会二日目は、邑久光明園の資料展示室と園内を学芸員に案内してもらい、途中で回復者の吉田藤作氏と合流し、西本願寺会館にてお話を伺いました。回復者の方から直接に施設を案内していただくと、より熱が感じられました。

 その後、恩賜会館にて昼食も兼ねた交流会を行い、回復者数名の方にも参加していただきました。「こんな風に交流会が開かれるのは久しぶり」と言う声や笑顔が見受けられ、研修会が開けて本当に良かったと思いました。それと同時に、普段から施設に出入りし関係を築いてこられた方々、ハンセン懇を通じての地域を越えた関係性、今まで事業と共に願いを繋げてくれた先輩たち、様々な方々のおかげで私は今こうして研修会に参加しているという事実を改めて実感しました。

  

■おわりに

 あの時「この光景をとにかく忘れないでくれ」と声をかけてくれた方は既に亡くなられ、その言葉の真意はもう確かめようがありません。ですがおそらく、・この光景・に至るまでにたくさんの方々が、一人の人と人として出会い、時間をかけて関係性を築いてきたのでしょう。・この光景・を忘れないために何ができるのかは今後の課題ですが、今回の研修会がこれからに繋ぐ一つの手がかりになったように思います。

  

長島に架かる「人間回復の橋」見学の様子
邑久光明園「患者桟橋」見学の様子

  

真宗大谷派宗務所発行『真宗』2023年7月号より