石見銀山にほど近い島根県温泉津。
この地で、下駄作りに精を出しながら一万とも言われる「口あい」とよばれる句を残した妙好人・浅原才市(1850年〜1932年)。
浄土真宗本願寺派安楽寺の門徒であった才市は、下駄作りの合間にふと浮かんだ信心や仏様への思いを、カンナ屑などに書き留めたといいます。
かぜをひいたら せきがでる
さいちが ごほうのかぜをひいた
ねんぶつのせきが でる でる
浅原才市
才市は、鈴木大拙の『日本的霊性』に紹介され、広く人々に知られることとなりました。
その才市の生涯に興味を持ち、調査したのは作家の水上勉です。水上勉はそれらをもとに、『才市』を執筆しました。
水上勉は、のちに妙好人についてこのように語っています。
妙好人は、浄土真宗の思想を身現するのに、申し合わせたように無学だ。(中略)凡夫なるがゆえに、愛憎の人世を背負い、呪い、恨み、悲しみ生きる。それなのに、浄土真宗の教えを、露ほども疑わない。ひたすら、念仏三昧である。阿弥陀の慈悲にすがって、身心をあずけて、悲しみも、よろこびも、みなそうさせていただいて生きる。それゆえ、僧のように法は説かない。学者のように、人に教えもしない。働いて、一日一日を苦しみくらすことで余念がない。自分一代の業障の暦をふりかえって、ひたすら阿弥陀仏のお力におすがりして、その日その日のよろこびをこぼすのである。
水上勉編『大乗仏典 〈中国・日本篇 第28巻〉 妙好人 』