善徳寺が所有する「三帖和讃(色紙和讃)」は、本願寺第10代の証如上人のときに開版されたものです。蓮如上人が1473(文明5)年に吉崎別院で開版をした文明本に校閲を加えたもので、1553(天文22)年に刷られたことが当時の記録『私心記』などから分かっています。

この「三帖和讃」は、金銀の箔が散りばめられて周囲を荘飾されている紙で、朱と黄に交互に染め分けられています。この朱と黄が交互に現れるのは、今どこを読んでいるのか分かりやすくするためといわれています。また、文字は木版で摺られています。その字形は独特の形をしており、漢字と片仮名が交じった文に左訓(語句の説明や漢字の読みなどを記したもの)を付して読み手に配慮して、読みやすく親しみやすいようになっています。

堂々と字体から紙から綴から、形から、大和風な独自の美を、書物界に創り出したのは、実に真宗であって、殆ど全く蓮如上人の功績である。上人は長命な僧であって、特に文明、明応の頃に活躍せられた。そして法灯を実如に伝え、証如に渡した時、写本に版本に御文章の出版を見た。誠に他の宗派に類例を有たない仏書である

(『柳宗悦全集』第19巻「仏の文字」)

真宗の門徒の信仰の拠り所となった「三帖和讃」に美を見出し、強く心を惹かれた柳は、この頃から描く文字が「和讃」に似ていったといわれてます。