「文明第三、初夏上旬のころより、江州志賀群大津三井寺南別所辺より、なにとなく、不図しのびいでて、越前・加賀、諸所を経回せしめおわりぬ。よって、当国細呂宜郷内吉崎というこの在所、すぐれておもしろきあいだ、年来虎狼のすみなれしこの山中をひきたいらげて、七月二十七日より、かたのごとく一宇を建立して、昨日今日とすぎゆくほどに、はや三年の春秋はおくりけり」(『御文』一帖目第8通)

 1471(文明3)年、本願寺8世・蓮如上人は、越前吉崎に坊舎を建立。
 
 吉崎を拠点に、現在真宗門徒の日々のお勤めになくてはならない『正信偈』や『三帖和讃』(親鸞聖人が教えの内容をわかりやすく、当時の流行り歌の形式で書かれたもの)を開板すると共に、『御文』(蓮如上人自ら浄土真宗の教えをわかりやすく手紙の形でしたためたもの)を積極的に記し、「南無阿弥陀仏」の名号を書き、門徒に浄土真宗の要を伝えられました。
 
 こうして、蓮如上人の吉崎でのこの4年間が、今日の東西本願寺の基礎を築いたといっても過言ではないほど貴重な時間となったのです。

 それから、550年…。

 2021年、吉崎御坊御開創550年の節目の年を迎えました。

御山(おやま)での合同法要の様子

◆東西本願寺僧侶の有志が結集 -まずは自分自身が蓮如上人の御遺徳をしのぶ-


 寺院を取り巻く時代状況としては大変厳しい中、「吉崎という真宗再興の地を今後につないでいかなければならない責任感」を持った、蓮如上人と吉崎別院を大切に思う東西本願寺の若手有志が、その節目の年を機縁に立ち上がりました。

 そして、東西本願寺(真宗大谷派と浄土真宗本願寺派)の僧侶・門徒が手を取り合って、蓮如上人の御遺徳をしのびつつ、一人一人の信心を確かめる場としての吉崎の地を次世代に手渡すべく、吉崎御坊御開創550年記念法要が企画されました。

 企画の中心になったのは、実行委員長をはじめ8名の本願寺派僧侶と、福井・小松・大聖寺と教区をまたいだ大谷派の3名の僧侶。「東西本願寺の僧侶有志が、力を合わせ蓮如上人のご功績を伝え、教えを護ってこられた方々に感謝して法要を勤めたい」との思いのもと、「何よりも、実行委員会である私たち自身が蓮如上人の御遺徳をしのび、念仏を慶ぶご縁としたい」と、自信教人信の誠を尽くした蓮如上人に想いを馳せながら準備が進められました。

新型コロナウイルス感染症感染拡大で3年越しの法要 -東西合同法要に向けた試行錯誤-


 しかし、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、御開創550年の御正当にあたる2021年の法要は、「お待ち受け法要」(重要な法要を前に法要への機運を高めるために行われる法要)の位置づけに切り替え、勤められました。

 このお待ち受け法要を経て、2023年の秋の法要勤修を目標に、あらためて準備が進められることになったのです。

 準備の過程でのアイデアとしては、キッチンカーを招いたりといったフェスティバル的要素を取り入れることも検討されたとのことですが、最終的には「世間に向かって人を集めることではなく、シンプルに自分たちが大切だと思う法要を東西合同でしっかり勤めよう」との方向性が定まったとのことです。実行委員会の思いは、下記プロモーション動画で表現されていますので、ぜひご覧ください。

法要に向けた願いを反映したプロモーション動画

 また、この法要に向けて開設された公式YouTubeチャンネルでは、東西それぞれのお勤めを東西の僧侶が互いに真剣に学び合う貴重な場面も公開されています。この動画から、まずはお互いの違いを知り、法要勤修という一つの目標に向かって歩む様子を垣間見ることができます。

◆東西合同法要初日 -それぞれの違いを大切に-


 そして迎えた2023年9月15日。
 
 まさに、蓮如上人が552年前に坊舎を建立した跡地(「御山(おやま)」)において、東西本願寺僧侶の有志による「仏説阿弥陀経」が勤まり、3日間にわたる記念法要がはじまりました。お経を戴く作法も東西で異なりますが、それぞれの伝統を大切にしながら法要は勤められました。法話は、本願寺吉崎別院輪番・中村祐順氏(浄土真宗本願寺派)で、私たちの生活の中に生きているお念仏が確かめられました。

法話をされる中村祐順本願寺吉崎別院輪番

 夜は、会場を吉崎西別院(本願寺派)に移し、本願寺派の作法「正信偈 草譜 六首引」でのお勤めの後、東西の僧侶による「お坊さんパネルディスカッション『ウチデハネ・・・』Vol.1」が行われました。東西それぞれの違いを語り合うと共に、登壇した一人一人から「僧侶にとって教えを伝えていくことが一番大きな仕事。それを成し遂げたのが蓮如上人」など、蓮如上人への想いが述べられました。そして、まずは僧侶自身の足が吉崎に向くように考えていきたいと、これからの歩み出しに向けた想いも語られました。
 
 ディスカッションには、遠く沖縄から来られたご門徒さんもおられ、蓮如上人を慕う全国から集ったご門徒さんが、吉崎の地で手を合わす姿が印象的でした。

参詣の方からの質問もいただきながら進行したパネルディスカッション
記念法要:1日目 逮夜法要(15日 14時~)【吉崎御坊御開創550年記念法要】

◆法要2日目 -次世代につなぐお稚児さんの想い出-


 2日目は、午前中に吉崎東別院(真宗大谷派)、午後に吉崎西別院(浄土真宗本願寺派)でそれぞれ法要が勤まるとともに、東西合わせて39名のお稚児さんにより法要が荘厳されました。近隣から申し込みのあった親子が、本堂を巡り、御本尊や蓮如上人の御影の前で散華をする、華やかな法要となりました。

東別院での法要の様子。本願寺派の僧侶も余間に出仕。

東別院では、以前別院の副輪番も務めておられた波戸章氏(富山県南砺市 真宗大谷派大福寺)、西別院では谷間徹誠氏(石川県加賀市 浄土真宗本願寺派光楽寺)よりそれぞれ法話があり、蓮如上人が吉崎で伝えられたお念仏の教えを確かめました。

波戸章氏の法話を聴聞する参詣のご門徒さん
西別院での法要の様子。大谷派の僧侶も余間に出仕
谷間徹誠氏の法話を聴聞する参詣のご門徒さん

また、昼食には西別院において、地域子ども食堂「テンプル食堂よしざき」を開いている一般社団法人えんまん様( https://en-man.net )の提供によるお蕎麦がお斎としてふるまわれました。参詣者は、西別院から眺める蓮如上人もその昔眺めたであろう、青空に続く北潟湖の美しい風景を楽しみながら、美味しいお蕎麦をいただいておられました。

 夜には、東別院を会場に、真宗大谷派の作法で「正信偈 草四句目下 念仏讃淘五 六首引」が勤まった後、「お坊さんパネルディスカッション『ウチデハネ・・・』Vol.2」が、昨夜とメンバーを入れ替えて行われました。2日間の法要を経て感じられた東西の違いなどについて語り合われた他、参加されたご門徒さんからの質問に答える場面もありました。

パネルディスカッションに先駆けてのお勤めの様子。本願寺派の僧侶も大谷派のお勤めを一緒に唱和

ご門徒さんからは、「東西のお勤めの違いは、外国に行ったみたいで、自分の宗派のお勤めになると故郷に帰ってきたみたいに感じた」といった、東西合同法要ならではの感想も聞かれました。

記念法要:2日目 逮夜法要(16日 14時~ 吉崎西別院)【吉崎御坊御開創550年記念法要】
記念法要:2日目 日中法要(16日 10時~ 吉崎東別院)【吉崎御坊御開創550年記念法要】

◆御満座 -吉崎550年の歴史を確かめる-


 最終日の17日は、10時から御山の蓮如上人像(高村光雲作)の前にて、東西合同で「和訳正信偈」のお勤めがありました。和訳正信偈は、50年前の1973(昭和48)年に親鸞聖人御誕生800年・立教開宗750年の記念事業として、浄土真宗の10宗派の共通勤行として制定されたものです。法話は真宗大谷派吉崎別院輪番の篠原享栄氏で、私たちに念仏を伝えてくださった蓮如上人の御遺徳があらためて確かめられました。

東西本願寺の僧侶が合同で『和訳正信偈』を唱和
篠原亨栄吉崎別院輪番の法話の様子。御山にも多くのお参りがありました。野外の法要には、協賛企業さんからの提供で、最新の平面波スピーカーシステムが設置されました
記念法要:3日目 日中法要(17日 10時~)御満座【吉崎御坊御開創550年記念法要】

◆蓮如さんの吉崎 -これからの歩みを見据えて-


 3日間の法要は、晴天の下、お彼岸前にもかかわらず非常に暑い中行われました。そして、法要には、蓮如上人と吉崎を大切に思う多くの門徒・僧侶が遠近各地よりお参りされました。今回の法要は、地元の新聞にも取り上げられたのですが、その記事を読んで「吉崎での蓮如さんの法要なら、何としてもお参りせんなん」と身を運ばれたご門徒さんもおられたとのことです。

法要の合間のお賽銭集めの様子

そのような光景を眺めながら、法要の副実行委員長を務めた佐竹融さん(真宗大谷派)は、「この法要を勤めたことで、予想以上の反響があり、自分たちが思っている以上に、ご門徒さんは吉崎に目を向けてくださっていることにあらためて気づかされました」と語っておられました。

法要後お焼香をする参詣のご門徒さん

 今回、東西本願寺で作法が異なる中、お互いの違いを尊重しながら法要が勤まりました。儀式作法が異なっても、大切にしている教えは同じ…。そのことが、この法要に関わった一人一人の尊敬に繋がっていたように思います。奇をてらわず、大切に思う事を大切な法要として勤める、その意義をあらためて感じさせていただいた法要でした。

この法要をきっかけに生まれた「蓮如さんの吉崎」を大切に思う東西の僧侶、門徒のつながりが、これからも続いていくことを願わずにはおれません。

(真宗教化センター 寺院活性化支援室)