「金陽会」絵画に学ぶハンセン病問題

東北教区蓮心寺 本間 義敦

  

はじめに

 新型コロナウイルス感染症の五類移行により、私が関わりを続けている松丘保養園では、以前のような形とはいかないまでも交流ができるようになりました。7月13日から9月29日まで、園にある社会交流会館が「鴻池朋子展 メディシン・インフラ」(青森県立美術館)のサテライト会場となり、そこで菊池恵楓園内の絵画クラブ「金陽会」の作品が展示されました。八月二十三日に教区事業として東北教区社会部で社会交流会館を訪れ、金陽会の作品の保存に努めておられる学芸員の藏座江美さんからお話を伺いました。

 

絵画展について

 金陽会は熊本県の菊池恵楓園の中で活動されている入所者による絵画クラブです。その始まりは、看護師の方から絵を描くことを勧められたことがきっかけだったようです。指導する先生がいたわけではなく、自分たちの独学で絵を描くことから始まったこの絵画クラブは、おおよそ70年ほどの歴史があります。藏座さんのお話では、今回のように、全国で個展を開き活動されている鴻池さんの作品と金陽会の作品が療養所で共に展示されるのは初めてであるということでした。金陽会のメンバーの方は、活動し始めた頃は自分たちの作品が園外に展示されることになるとは考えてもみなかったと言われていたそうです。

 これまでも私は、菊池恵楓園を訪問した時に、たくさんの作品が所蔵されていたことを記憶していますが、今回の絵画展には20点が飾られていました。宗派で発行された『しんらん交流館たより』の表紙を飾っていた絵画も何点かありました。

  

聞き取るということ

 現在も金陽会は80歳と95歳のお二人の方が活動をされているそうです。藏座さんは日頃取り組まれている保存活動について語られる中で、「絵画を通して知ったことをたくさんの人とシェアしていきたい。エピソードが自分だけのもので終わってしまうのはもったいない」と話され、「聞き取りをするということも、ご本人だけではなく、その人と関わった周りの人からのお話を聞くことも聞き取りではないか」と言われました。

 松丘保養園の入所者数も39名(8月23日現在)と減少しています。その中で、関わりがあった人からの話も聞き取った声として残していき、自分の身近な人やご縁のある方に語り継ぐことが大事な活動だと教えていただきました。教区としてだけでなく、個人としても聞き取り、語り継ぐということを大事にしていきたいと思います。

 また金陽会の展示を小学校で開かれた時に、純粋に絵画を観て感じたことを話してくれた子どもたちや、展示されている絵画をスケッチしていく子どもたちがいたことを話してくださいました。藏座さんはその子どもたちの姿から、「絵画を通して何か残っていくようになればと願っています。種を蒔いているようなことです」と言われていました。今まで継続してきたことを大事にしながら、次の世代に継承し手渡していくということの大切さを、藏座さんが言われた「種を蒔いていく」ということから感じました。

 

絵画を観る

 今回、東北教区社会部の事業として参加するにあたって、教区への呼びかけのチラシを作成する時に、絵画について「国による強制隔離政策によって故郷と分断された思いや療養所での様々な思いが詰まっている」とチラシに表現したところ、藏座さんから「先入観を持たせるような表現は不要ではないでしょうか」と指摘をいただきました。入所者の方が描いたということで、私たちが純粋に絵画として鑑賞していないのではないかということでした。

 当日、藏座さんから伺ったお話の中で、かつて絵画展を開催された折に、「明るい絵で驚きました」という感想があったと言われていました。入所者の方は強制隔離の中で生きた方だということで、苦労や悲しみを表現しているだろうと作品を色眼鏡で見てしまい、そのことでかえって絵が「明るく」見えてしまったのではないでしょうか。

 藏座さんは文学と絵画の違いについて、「文学は情景を考えたり思考を考えたり行間を埋める作業が必要ですが、絵画は見たものそのものが心を動かす」とおっしゃっていました。まずはそのままの絵画として観るということが大事なことだと教えていただきました。それは私たちの日常において、人と出会うということが大事だと言っていても、自分の色眼鏡に適う見方で人を見ていないかという問いかけに感じました。

 

おわりに

 以前、入所者の方から「交流が盛んになって園には来てくれるが、おれの家に遊びに来てくれと言われたことがない」と言われたことがあります。松丘保養園と教区との交流会で出会った方ですが、その後お寺での行事などの際に陶芸の作品を展示即売していただき、何度か食事も一緒にしました。その言葉を言われた時も感じたことでしたが、私は入所者の方としてその人に出会っていたのではないのか、目の前にいる一人の人間としてその人と出会ってきたのかという問いかけをいただきました。藏座さんから教えられた絵画を観るという視点から、交流とはどういうことか、人と出会うとはどういうことかをあらためて考えさせられました。

 

【お知らせ】
小笠原登先生の志願に生きる
()(ほう)()法要~

ハンセン病隔離政策に抗した医師・大谷派僧侶の小笠原登先生の事績に向き合い、その願いを訪ねます。

期日 2024年12月8日(日)

時間 午後1時~

場所 名古屋教区第14組圓周寺

講師 玉光順正氏(山陽教区光明寺前住職)

講題 「一人になる─人間解放への祈り─」

主催 吐鳳忌法要実行委員会

お問い合わせ 圓周寺(TEL:052-444- 0024)

 

※「吐鳳忌法要」については、こちらもあわせてご覧ください。

「ハンセン病はいま<318>「吐鳳忌をお勤めする意義」小笠原英司」

 

真宗大谷派宗務所発行『真宗』2024年12月号より