親鸞聖人をめぐるキーワード


◆他力本願


「他力本願」といえば、現代ではよく「他人の力をあてにする」という批判的な意味で使われていますが、親鸞聖人がおっしゃる「他力本願」の意味はまったく違います。


「他力」に対するものとして「自力」という言葉があります。この「自力」とは、自分の思いや行動によって、何かを成しとげようとする力を指します。それは一見立派なことのようですが、そこには無意識に〝自分こそが正しい〟とするごう慢さがひそんでいるのです。親鸞聖人の言われる「他力」とは、この自力にとらわれて、他者を踏みつけ、自分も悩み苦しんでいる私だと気づかせる仏さまのはたらきのことをいいます。そのような私たちにどこまでも寄り添い、そのままで救いとろうとする仏さまの大きな願いを「他力本願」というのです。


◆悪人正機


「悪人正機」は、親鸞聖人の教えのなかでもっとも有名で、またもっとも誤解を受けているものかもしれません。「悪人正機」とは、「善人であっても往生をとげることができるのだから、悪人が往生できないわけがない」という意味です。


この「悪人」を、世の中でいう泥棒や犯罪者と受け取ってしまうと、罪を犯したら救われるということになります。果たして親鸞聖人が教えられた「悪人正機」とはそのようなものなのでしょうか。


人間は悲しいかな自力でしか生きることができません。その事実を気づかせるのが仏さまのはたらき(他力)ですが、自身の事実に気づかないままに、自分でどうにかなると思っている人を「善人」といいます。一方、「悪人」は、仏さまのお心にふれ、善人とはいえない自分の身の事実に気づいた人のことをいいます。世にいう犯罪者のことではないのです。


聖人は、この他力によって生きる悪人こそ、まさしく浄土へ生まれ往く機(対象)なのだといわれているのです。  


『伝記 親鸞聖人』(東本願寺出版)より


東本願寺出版発行『真宗の生活』(2020年版⑨)より

『真宗の生活』は親鸞聖人の教えにふれ、聞法の場などで語り合いの手がかりとなることを願って毎年東本願寺出版より発行されている冊子です。本文は『真宗の生活』(2020年版)をそのまま記載しています。

東本願寺出版の書籍はこちらから

東本願寺225_50