2002真宗の生活

2002(平成14)年 真宗の生活 1月 【無有代者(むうだいしゃ)

孤独(こどく)に沈む心の底から>

数年前、半年近く入院するような大病(たいびょう)しました。その時、周りの人びとが優しく声をかけてくれるのがとても(うれ)しかった。(たの)もしい気持ちにもなりました。
ところがそれも最初のころだけで、入院が長引くにつれてだんだん(くら)い気持ちになり、イライラすることが増えていきました。「みんな元気なからだだから、悠長(ゆうちょう)なことが言えるのだ」と、心の中で(つぶや)いていました。

そんなある日、ふだんは無口(むくち)な父が『真宗聖典(しんしゅうせいてん)』を開いて、私に示しました。

無有代者(むうだいしゃ)--(たれ)()代わる者なし--

(『仏説無量寿経(ぶっせつむりょうじゅきょう)』・聖典60頁)

自分が(つら)い時、この言葉が(はげ)ましてくれたと父は言いました。しかし、その時の私にとっては、身も(こお)るような言葉でした。「自分一人で苦しめ」と、言われている気がしたのです。

今になって、少しわかります。誰も代わってくれない人生だから、かけがえがないのです。孤独(こどく)に沈み込んでいる時にこそ、この言葉が「今現在(いまげんざい)を生きているという事実に目覚(めざ)めよ」と呼びかけてきます。

『真宗の生活 2002年 1月』【無有代者】「孤独に沈む心の底から」