―名古屋教区第5組では推進養成講座を「いのちの学校」と題し、「グリーフケア」を内容とした講義・話し合いを前期教習として開催(2018年7月24日記事にてご紹介)。続く後期教習は「大人の修学旅行」と題し、今年1月に開催。行程中の座談会はしんらん交流館を会場に行われました。同朋の会の推進を担う推進員を育成する講座で「グリーフケア」を実践するという新たな取り組み。後期教習を終え、講師の酒井義一さんとスタッフの菱川俊さんに、講座を終え、全体を通しての感想をうかがいましたのでご紹介します。
名古屋教区第5組 推進員養成講座「いのちの学校」・後期教習「大人の修学旅行」を終えて
講 師:酒井義一 (東京教区第5組存明寺住職)
スタッフ:菱川 俊(名古屋教区第5組以覺寺住職)
※しんらん交流館大谷ホールを会場に、2班に分かれての座談会が行われました。
♣講師として感じたこと
-前期・後期を通し、講師を担当された酒井さんに、名古屋教区第5組の取り組みについての感想をお聞きしました。
講師:酒井義一 さん(東京教区第5組存明寺住職)
出会えてよかった
今回のいのちの学校は、親しい方を亡くされた人々を主な対象とした推進員養成講座で、参加者の年代も比較的若く、おそらく全国でも初の試みと思われます。このような講座を企画・実践したスタッフの皆さんの熱意に、心から敬意を表したいと思います。
講座は緊張感とともに始まりました。お寺にはあまりご縁がない世代で、横のつながりもない。スタッフも若く、講師も未熟。そんな中、スタッフが毎回心がけていたことは、ていねいに人々を迎えるということでした。
その姿勢に刺激を受けて、私も毎回プリントを用意し、音楽や動画やパワーポイントを使いながら、自分が出会えた教えを表現しようと試みました。話し合いの時間では、大切な人と別れた今の思いを語る人、涙ながらに今の自分を語る人がそこにおられました。
前期5回があっという間に終わり、充分に人々との距離を縮められなかったという反省を持ちながら迎えた「大人の修学旅行」、後期講習。3日間の日程でぐっと距離が縮まりました。
お話の中で、悲しみにはいろいろなすがたがあること、私の母に対して自責の念があること、同時になぜかほっとしてしまった自分を語ってみました。すると、ある人が「今まで誰にも言えなかったけれども、私も同じ」と語ってくれました。悲しみをキーワードにしてその人と出会えたような気がしました。
気になる人もおられました。
しかし、3日間、食事や清掃や諸殿拝観を共にし、カフェでたわいもない話をし、私も自らを語り、その人の生の声もお聞きしました。お別れの時、ハイタッチをしながら、「お互い元気で生きていきましょうね」と言葉を交わしました。
うれしい出会いでした。同朋会館という場そのものが力を持っていることを痛感しました。
また、受講者からの熱のこもった言葉にも出会えました。
「このまま終わるのが淋しい」
「同窓会をやりましょう」
スタッフや受講者のそんな盛り上がりの中に身をおきながら、心底、出会えてよかったと感じました。人は、悲しみや苦しみをいだく存在。でもそんな人間をじっと見つめ続ける教え(ひかり)がある。そのことを体感できたからこその盛り上がりなのだと受け止めています。
本当にありがとうございました。
♣企画・参加者として
-後期教習を終えた今、スタッフとして、また、参加者としての感想をお聞かせくださいました。
スタッフ:菱川 俊さん(名古屋教区第5組以覺寺住職)
たくさん笑いました
後期教習を終え、同朋会館からバスへの帰り道で参加者からいただいた言葉です。
昨年から始まった「いのちの学校」。緊張感がはしり、笑い声どころか話し声すらなかった第1回の講習のことを思い返すと、まさかこのような言葉をいただける講座になるとは想像もつきませんでした。
「グリーフケア」を中心にした「いのちの学校」。大切な方を亡くされたり、大切なものを失い、悲嘆にくれておられる方々が参加されることから、真宗本廟での2泊3日を過ごすことで、何を思い、何を感じられるのか。また、日程の中の帰敬式、宣誓式がどのように参加者に受け取られていくのか、予想できないままに後期教習の日を迎えました。
前期から引き続きの講師である酒井義一さんは、「私は何よりもこの『場』というものを信頼しています」と、最初の講義で力を込めてお話しされていました。2泊3日を真宗本廟で過ごすことによって感じる歴史、また肌で感じる人の温かさ。後期教習を終えた今、先生の言葉の意味を体験をもって理解できたように思います。
浄土真宗の歴史には、悲しみ、苦しみ、怒り、悩みを抱えながらたくさんの人が親鸞聖人をたずねてこられたということがあります。両堂を参拝したときの厳かな雰囲気からは、目には見えないけれども「あなたはひとりではない」と包み込んでくれているような安心感がありました。
また、同朋会館のスタッフのみなさんの「私はあなたを待っていました」という雰囲気での出迎え。そして「私はあなたのことを知りたい」という姿勢の温かさ。
参加者に共通する「自分の気持ちをわかってほしくても、わかってくれない。聞いてほしくても聞いてくれない」という悩み。そんな日頃の悩みに応えるかのように、何を言っても良い、何を思っても良い、泣きたい時には泣いても良い、そんな安心できる「場」になっていました。
2泊3日を参加者と共に過ごし、信頼できる場とはどのようなところなのかを改める考える機会になった同時に、その信頼できる場の必要性を感じました。
最後に、帰敬式を受けられ法名をいただいた参加者の宣誓式から、目の前の現実から逃げたり、ごまかしたりすることなく、悲しみや苦しみを受け止めながら前に進んでいくのだという真宗門徒としての強い自覚、強い意志を目の当たりにしました。
「たくさん笑いました」という単純な言葉の背景にはこれからの生き方があらわれていたように感じます。
「悲しみ」を抱えた状態で参加される方々と共に推進員となる講座を進めていく中で、戸惑うことや新しい課題に直面した前期教習。しかし、真宗本廟・同朋会館という「場」で、共に時を過ごして語り合うことで、亡くなった方と向き合うことで湧き起こる「悲しみ」を縁に新たな出会いが生まれました。こうした経験を経て、真宗門徒として、推進員としての歩みを始められた方々は、今後どのような同朋の会という「場」を作っていくことになるのでしょうか。試行錯誤を重ねて始められた取り組みに、新たな可能性を感じます。
(おしまい)
♣前期教習の記事はコチラ
推進員養成講座で「いのちの学校」-名古屋教区第5組-【名古屋教区より】(2018年7月24日記事)
※チラシの画像をクリックすると、PDFページが開きます。