慶誓寺(新潟県新潟市北区木崎二九五番地) 住職 泉 智慶

子ども達が受け継いでいく、共に歩むこころ

型の指導をする泉住職
型の指導をする泉住職

「えーいっ!」「やあーっ!」。

夕方、境内地に建つ道場に、子供達の気合いの入った声が響き渡る。新潟県三条教区第二十三組慶誓寺の住職、泉智慶さんが教える躰道(たいどう)の教室だ。躰道とは、昭和四十年、沖縄の祝嶺正献という空手家によって創始されたアクロバティックな武道。体軸(じく)を倒したり回転させたりすることで、相手の攻撃をかわし、さらに同時にその勢いを利用して技を繰り出し攻撃する。泉さんは躰道六段教士、練武館道場の館長でもある。大学生の時出逢った躰道を、寺で教え始めてから三十数年が経つ。

「いろんな人に、寺に足を運んでほしかった」と話す泉さん。太極拳の指導もされており、それをきっかけにご門徒になった方もいるそうだ。また毎年、「お寺の遠足」と名づけたバス旅行を行い、ご門徒とのふれ合いを大切にしている。

現在、躰道の門下生は、園児から大人まで約八十人。中には三十年前に習い始め、今では親となり、子どもと一緒に続けている人達もいる。子ども達を見て驚くのは、年長者が下の子の面倒を実に良く見ているということ。手本となり、技の指導をする。悪ふざけが過ぎれば、向かい合わせできちんと言って聞かせる。年下の子ども達も話をちゃんと聞く。お兄さん、お姉さんのようになりたいと、練習に励むのだ。

泉さんは「教えているのは基本的なしつけ。靴を揃える。挨拶をする。この二つは何度も繰り返し言っている。それから上級生にはお手本を見せなさいってね」と言う。子ども達に仏教の話をすることは殆ど無い。「仏道っていうのは動詞。活動し続けること。そして真宗は同朋でしょ。お互いの価値観を認め合う。躰道をとおして子供達は、自己表現の仕方を身につける。それが自信になる。自信がついて自分を大切にできる子は、まわりにも思いやりを持って接することができるようになる。個でなくグループの中で、お互いが連携して物事をやる意味、それがとても大きいよね」。

たくさんの生徒の笑顔に囲まれて
たくさんの生徒の笑顔に囲まれて

練習中は厳しい先生だが、終わった後は子ども達に囲まれ、肩を揉まれたり抱っこをせがまれたり、とても信頼されているのがわかる。子ども達だけではない。大人の生徒も勿論だが、保護者の連携、団結力が凄い。大会や行事の準備には、当たり前のように皆が集まる。他人との付き合いを面倒に思う人が増えている今の世の中で、わが子の為だけでなく、ここに集まる子ども達皆の為に、それぞれ忙しい身でありながら駆けつけるのだ。人の輪を何より大切に考える泉さんの思いが、きっと伝わっているからなのだろう。

取材をとおし、思い起こしたのは回向文。全ての人と一緒に救われていくことを願う心が、子供達にいつの間にか芽生え、育っていく。「私も皆に育てて貰っている」と話す泉さんの周りで拡がる輪。これからもどんどん大きくなるに違いない。

練武館道場(慶誓寺境内)
練武館道場(慶誓寺境内)

(三条教区通信員・野々原昌美)

 

 

 

 

 

 

『真宗』2014年10月号より