【継続可能な規模を見極める】
事業継続のもう1つの鍵は、「無理をしないこと」にある。寺院の規模や運営形態などは千差万別である。一時的な事業であれば、少々の無理を承知で実施することもできるかもしれないが、継続するとなれば必ず寺院にかかる負荷は「雪だるま式」に増えて、疲れ切ってしまいせっかくの事業も止めざるを得なくなる。だからこそ、思いや願いに流されるだけではなく、寺院を取り巻く環境を冷静に受けとめ、地道に継続していくことができる事業規模や内容を考えることが重要である。
「隨專寺子ども会」の事業規模を見ると、開催回数は1年間に2回(「報恩講」と「花まつり」)であり、参加対象もお寺の所属門徒を優先して案内し余剰があれば他のお寺や近隣地域に案内具合い。しかし、お寺の運営状況や本堂の規模を考えると、現在の形が無理なく実施するために適切な規模なのだという。
【将来の目標を定める】
今、東口住職にはもう1つの目標があるそうだ。それは、今回のサポート事業の一環として教区教化委員会のスタッフの全面協力の下に取り組んだ「夏祭り」を「隨專寺子ども会」として開催することだ。
「参加型のゲームをすると、子どもたちは喜んで参加してくれます。夏祭りも喜んでいただけたのですが、想像以上に準備や運営に配慮すべき点も多く、継続するのは少し難しいと感じて、少しお休みさせていただくことにしました。ただ、今は周囲に助けてくださる方もたくさんおられますし、近い将来に実現したいですね。」
と東口住職は意欲を覗かせている。また、
「子ども会を通じて、1人でも多くの子どもが寺院に集い、皆で『正信偈』を唱和して、その声が“いきいき”と本堂に響き渡る、そのような空間を大切にしていければと思います。そして、寺院が子どもたちにとって、安心して集うことができる場となることを何よりも願っています」
とも語られた。
最初から「大風呂敷を広げる」のではなく、その都度、実施可能な範囲を見極めて取り組むことが、結果としてはお寺に親しんでいただくご縁を繋いでいくことになる。「独りで抱え込まない」・「無理をしない」といった東口住職の姿勢が、継続的な事業の実施を実現し、新たな展開の可能性をもたらしているのであろう。
【サポート事業が克服していくべき課題】
ただ、京都教区の「お寺の子ども会サポート事業」にも課題点はある。特に、派遣するスタッフは、若手寺族が中心であり、子ども会が開催される週末や休日には法務が重なることも多く、子ども会の当日に派遣に必要充分な人数を確保できないこともある。
また、第7回教勢調査の結果が示しているとおり、少子化の影響もあってか、仏事の次世代への相続が難しくなる中で、「子ども会」の開設に取り組む寺院も少なくなり、子ども会の発足や運営を推進する意識喚起の取り組みも、まだ具体的な方向性を見出すには至っていない。
三品 正親主査は、
「教区として青少幼年教化を推進するためには、それらの課題に対して、具体的に応答していく方途を教化委員会として示す必要があると思います」
と語る。
現在、京都教区では、青少幼年教化を教区教化の重点の1つとして捉え、将来的に教区で「子ども報恩講」を勤修することができるような教化体制を構築したいという方針が示されている。そのためには、三品主査が語られるとおり、「お寺の子ども会サポート事業」が直面している課題に応答し、乗り越えていくことが不可欠である。
【“総合力”の発揮と情報整理】
その手立ての1つとして、特に派遣スタッフについては、ご門徒の参画を促すような取り組みも検討したいという視点もあるようだ。
ご門徒が子ども会の運営に参画していただくことが、様々な課題を乗り越え、事業が広く深く根付くことに大きく寄与するとも考えられ、法務の都合で寺族が動けない状況にあっても、予定をあわせられるご門徒がフォローできる可能性も高い。
まだ、具体的な動きには至っていないが、将来的な可能性として、青少幼年事業へのご門徒の参画は大いに検討すべき点である。
また、教区として、これまでの事例を整理することも必要だという意見もある。これまでの4年間に開催された子ども会の実施事例や研修会の学習事例などは、整理して保管しておけば、子ども会の設置を希望する寺院が取り組みに着手する時の大きな手がかりとなる。さらには、これまでサポートを受けてきた寺院の方々にお集まりいただいて、意見や要望を集約することも、次の展開を考える上では重要な情報収集になるだろう。
取り組むべき課題は少なくはないが、教区内の状況を見定めて積極的に対応していくことで、その課題が新たな展開を生む契機ともなり得る。
そういった点からも、京都教区の「お寺の子ども会サポート事業」は、お寺とご門徒とが関係を深め、総合力で次の世代へ法縁を繋いでいく具体的な手立てとして、「子ども会」という教化組織が持つ可能性の大きさを示す取り組みの1つだと言えるだろう。