伝道掲示板                       

死にむかって
進んでいるのではない
今をもらって生きて
いるのだ
(『癌告知のあとで』鈴木章子)

 


迎えてくれる世界

 

 福岡市と北九州市のほぼ中間にある筑豊地域の中で、遠賀川流域田川盆地の北西に位置する田川郡糸田町。豊穣な耕地と豊富な湧水に恵まれ、弥生時代から稲作文化の先進地として栄え、300年以上続く「糸田祇園山笠」など、脈々と受け継がれてきた誇るべき歴史と伝統がある。その糸田町の住宅街の中に立つ圓滿寺のご住職、御笹正意さんにお話を伺った。

伝わりやすい言葉を選ぶ

圓滿寺の開基は1902(明治35)年に遡り、初代は金田炭鉱説教所を経て、地元の方々の尽力から圓滿寺が開かれたそうだ。2017(平成29)年の3月に住職を継職された現住職が第四世になる。

 掲示板は、もともと当初より設置されていたが、1992(平成4)年にお寺を改築された際に新設されたという。住職が掲示板を受け継がれて十四年ほどになるが、掲示板の言葉は難しい仏教用語を使わず、見る人に伝わりやすく、わかりやすいような言葉を選んでいるとのこと。

 その中で住職は、「死を忘れると生活は浮く 死を怖れると生活は沈む 死を明らかにすると生活は輝く」という池田勇諦氏の言葉に深い頷きを感じ、死をテーマとした言葉を選ぶことが多いという。「今この時代、仏教を聞こうとする人は少ない。関心のある方しかお寺に足を運ばない状況ではあるが、自分がいつか死んでいくという問題は関心があろうがなかろうが否応なしに迫ってくる問題ではないか。死とどう向き合うのか。いつかこの世から去る時に迎えてくれる世界があるということをお寺が表現していくことが最も大事なことであり、それが原点なのではないか。他人事ではなく自分の事として身近な問題として感じていく時、自然とお寺に足を運ばずにはおれなくなるのではないか」と住職は語る。実際に、散歩中に掲示板の言葉を見て訪ねてくる人もいるようだ。

 

掲示板の前に立つご住職と坊守の円花さん

    また、圓滿寺ではお寺を身近に感じてほしいとの思いから、春のお彼岸では音楽法要を取り入れ、日本舞踊家でもある坊守の円花さんがフルートやお琴とコラボして披露するなどして、門徒さんや地域の方に喜ばれているとのこと。

 掲示板に掲示される法語等は、住職が自分の心に響いた言葉を選んで掲示されているというが、実はご自身で書かれた言葉もいくつかストックがあるという。まだ掲示はしたことがないと照れながら話されていた。現代におけるお寺の在り方、何を問題として感じてほしいか、深い頷きや問いを感じる住職の言葉が近いうちにこの掲示板に掲示されるであろう。

(九州教区通信員・蓮井英信)

 

『真宗』2020年12月号「お寺の掲示板」より

ご紹介したお寺:九州教区田川組圓滿寺(住職 御笹正意)
※役職等は『真宗』誌掲載時のまま記載しています。