伝道掲示板
不足して 恵を知る
失って 宝を知る
今有るものを 大切に
今有るものを、大切に
四国の香川県の高松市の郊外、讃岐の空の玄関口である高松空港の近くに、立善寺はある。新型コロナウイルスの感染拡大による大変な状況の中、立善寺住職の細川泰敬さんにお話を伺った。
立善寺は、開基八八二(元慶六)年。当時は天台宗の寺院であったそうで、後に浄土真宗(真宗大谷派)に転派され、現在に至っている。立善寺は、足利義満の育ての親といわれる細川頼之公の菩提寺でもある。足利義満の父である足利義詮が病に倒れ、義満に政務を委譲した折に、細川頼之公を管領とし、義満の後見・教導を託したと伝えられている。細川頼之公は後に讃岐に流罪となり、讃岐に長年居られ、管領として四国を守っておられたそうである。その後、義満より京都に戻って来て欲しいという熱望があり、細川頼之公は晩年に城を建立され、その城を守る為の鬼門として立善寺が選ばれ、後に、細川頼之公の弟が立善寺を継がれたという歴史がある。
立善寺は山門の横に掲示板が設置されており、現在の掲示板は、前住職の代から設置され、毎月更新されている。よく御年配の方が、立ち止まって見られたり、写真を撮ったり、メモを取られたりする光景を目にする度に、「有難いなと感じる」と、細川住職は目を細めて話された。
しかし、どうしても掲示板に関心を寄せられるのは御年配の方々が中心となるため、若い方、幅広い世代の方々に、掲示板を通し、お寺というものに少しでも興味・関心を寄せていただきたいと願っておられる。またどうしても掲示板を見ていただけるのは、お寺の近隣の方やご門徒さんが中心となるため、遠方にお住まいのご門徒さんにも知っていただきたいと、苦心されている。
細川住職は、掲示板のことばや文字一つずつに、その寺院の住職の「心」が表れ、住職の願いや想い、考えが掲示板のことばや文字によって、伝え、または訴えることができると考えられている。
立善寺の掲示板を拝見させていただくと、「不足して 恵を知る 失って 宝を知る 今有るものを 大切に」という言葉が目に飛び込んで来た。短い文章ではあるものの、強く訴え、考えさせられるものがある。昨年からの新型コロナウイルスの感染拡大により、今までの私たちの当たり前の日常生活は、当たり前ではなかったと強く気付かされた。過去を振り返り、反省したりすることも大切だ。しかし、「灯台下暗し」という言葉のように、まず、自らの目の前にあるもの・ことこそ、当たり前だと思わず、大切にしなければならないと、強く感じさせられた。
(四国教区通信員・河野一道)
『真宗』2021年4月号「お寺の掲示板」より
ご紹介したお寺:四国教区東讃組(住職 細川泰敬)
※役職等は『真宗』誌掲載時のまま記載しています。