別院を護持し、地域に根ざした活動をされている「杉谷女性会」を取材させていただきました。
女性の教化組織の再興を願って
富山県南砺市にある井波別院瑞泉寺には、以前、女性の教化団体として「大谷婦人会」が設置されており、別院の行事にもご尽力をいただいてきたそうです。しかし、1969年のいわゆる東本願寺の「開申事件」に端を発する「教団問題」に井波別院もその渦中に巻き込まれていき、別院の管理運営をめぐる紛議が続く中で、「大谷婦人会」の活動も不本意ながらも途絶えてしまいました。
多くの痛みを背負いながらも、2003年頃には長らく続いた紛議にも終止符が打たれ、別院の運営も正常化されていきました。その後、宗祖親鸞聖人七百五十回御遠忌法要に向けて新たな歩みが進められるとともに、2013年10月に井波別院の御遠忌法要を厳修するという方針が確認されてきました。
その別院の御遠忌法要への歩みに重ねるように、2012年には御遠忌法要厳修を機縁として、女性の教化組織の再興を願う声が寄せられたことをきっかけに、女性会の設立に向けた歩みが始まったのです。
地域に根付いた「念仏相続」のつながり
女性会設立に向けた第一歩は、瑞泉寺の護持にご尽力されているお講である「二十八日講」の講長が知人に声をかけ、二十八日講の役員の方々と有志の女性数名で話し合いの場を持つことから始まりました。会を束ねる役員のお願いや会の運営を円滑にするための規約作成など、女性会の発足に必要な協議が複数回重ねられました。
そして、2012年の末には河原照子さんに女性会の会長をお受けいただくこととなり、年が明けて2013年2月から3月にかけての期間に、規約の素案と設立趣意書をもって井波地区を中心に各町内を説明にまわり賛同者を募られたそうです。
そういった女性の教化組織の再興を願う人々のご尽力により、最終的には約450名の会員が集まり、いよいよ「杉谷女性会」が発足することとなりました。
この「杉谷」という名のりは、井波別院瑞泉寺の山号にもなっている「杉谷」という在所に由来するものであり、本願寺第5代の綽如上人が、北陸のご門徒に聴聞していただく道場としての粗庵を建立された在所である「杉谷」の名称を大切に受け継いでこられたご門徒の想いを込めたものです。
そういった歴史が背景となっていることもあってか、「杉谷女性会」には真宗大谷派(東本願寺)だけではなく、浄土真宗本願寺派(西本願寺)のご門徒も会員になってくださっています。
そして、多くの方々が別院の太子堂に安置された聖徳太子の御木像、井波別院を建立された綽如上人、北陸での伝道教化に尽力された蓮如上人などの祖師方に幼い頃から親しんでこられたという伝統があり、合掌してお念仏することがごく自然のこととして伝承されてきた風土があります。会員の中にも、「子どもの頃、祖母が手を合わせお内仏のお給仕をしている姿をよく見ていました」という方も多くおられ、家族のつながりの中でお念仏が相続されてきた歴史が息づいているのです。
また、会員になられた方が地域の方々に声をかけてくださり、「あなたが勧めてくれるなら」と入会してくださった会員もおられるなど、地域の方々の暖かさによって紡いでこられた関係も「杉谷女性会」を盛り立てる大きな力になっています。
現在も、入会される方は増加し続けており、「杉谷女性会」の設立前と比較して別院の法要や行事にも参拝される方が増えてきたと言われています。別院に縁遠かった方々からも「山門をくぐりやすくなりましたね」との声をいただいているとのことです。
別院の活性化につながる「杉谷女性会」の活動
「杉谷女性会」の主な活動としては、別院の三大仏事である報恩講や太子伝会、そして綽如上人御忌法要などのお仏事への参拝や運営の協力、別院の清掃奉仕やお仏具のお磨き、広報誌の発刊などを中心に幅広く展開しています。
特に、井波別院の代表的なお仏事である「太子伝会」は、1711年から続く地元にも根付いた大規模な行事で、太子堂に奉安されている「聖徳太子二歳像」がご開帳されるとともに、9日間に亘って聖徳太子伝絵に基づいた聖徳太子のご生涯を紐解く絵解きなどが行われ、門前町を挙げて取り組まれる夏の風物詩となっています。その期間中の参拝者のお茶接待やお斎の配膳、門前でのご案内などを「杉谷女性会」の方々が担われており、別院の重要な仏事を支える原動力となっています。
「杉谷女性会」の発足を記念して刊行された広報誌『杉谷だより』は、会員の方々だけにとどまらず近隣の町内会にも広く配布され、「杉谷女性会」の活動を広くご理解いただくことにつながっているほか、近隣町内の方々に井波別院に親しんでいただく重要な機会にもなっています。
また、別院本堂の向拝幕の経年劣化が著しくなってきたことを受け、井波別院の御遠忌法要を記念して「杉谷女性会」からご寄付をいただくことにもなりました。「杉谷女性会」の役員の方々は、会員の方々のご自宅を一軒ずつ訪ねて、大事な別院のご崇敬のためにと丁寧に寄付のお願いにあがられたそうです。別院を大切に思いそこで相続されてきたお念仏を虚心にいただいてこられた方々の熱意があったからこそ、別院の御遠忌法要には真新しい向拝幕を設えることができたといわれています。
こうした「杉谷女性会」の方々のご協力は、様々な形で別院の活性化に寄与しており、毎月13日に『和訳正信偈』の練習と『正信偈』をテキストとしたご法話をいただく「おつめの会」についても、「杉谷女性会」の方々が積極的にご参加くださることによって、一層の盛り上がりを見せているそうです。
今後の目標としては、自分たちが「祖母の背中を見て、お念仏が大事だと教えられて育てられてきた」という言葉に象徴されるように、境内に残る幼稚園の旧園舎を活用して、子どもたちにお念仏の大切さを伝えていきたいと考えられているそうです。2014年には、その願いが具体的な形となって「花まつり」を復活させ、別院の由来に関する紙芝居を作成し、子どもたちに披露されました。
もちろん、活動の規模拡大が目的ではありませんが、お念仏をいただき、人にもお念仏をお勧めしようという純朴な「杉谷女性会」の方々の後姿が、極めて自然に別院を中心として世代を超えてお念仏を相続していく大きな「人のつながり」を形づくる力になっているのだと感じられました。