福井市の託願寺では、毎月1回の法話会がある。毎月8日に開かれていたことから、門徒さんからの提案で「八日講」と名付けられた。今では原則、毎月第二土曜日の午前中に開催している。
毎回およそ20名が訪れる。半分は近所の人たち、半分は福井県内の各宗派の寺を聞法のために巡っている門徒さんたち。「宗派にこだわらず、聞法したいという人に来てもらいたいと思ってやっています」と語る住職の牧野豊丸さんは、遠くから来る人のため、お寺の近くに駐車場も整備した。「このお寺の所属門徒はほとんどいない。いわば在地の道場です。皆さんに、ここが聞法できるところだと認識していただきたい。その象徴が八日講なんです」。
2年前からは託願寺YouTubeチャンネルを始めた。きっかけはコロナの緊急事態宣言下で毎月の法座を中止せざるを得ない状況が続いたこと。たまたま、ある門徒さんが10年ほど前から、法話をビデオで撮影し続けており、過去にはYouTubeで投稿してはどうかと相談を受けたこともあった。撮りためてあったのはおよそ70本分。門徒さんからデータを借りて、長男の尚史さんがYouTubeに過去の動画を投稿し始めた。今は毎月の八日講での法話を、坊守の定子さんが撮影し、尚史さんが投稿するという方法でチャンネルを運営している。
先日、他県のある住職が夫婦でお寺にやってきた。「YouTubeチャンネルの法話を見ている。これを使って学習会をしたいので、許可をいただけないか」とのことだった。「寝たきりの人や、お寺に来ることができない人にも見てもらえる。大変ありがたい取り組み」と感謝されたという。豊丸さんも「法話は1人が相手だろうが、100人が相手だろうが、ここだけの話というのはない。すべて公の話。公開の場で話したことだから、インターネットや学習会で流すのも構わない」としたうえで、「私一人だったら、こんなことはできなかった」と感謝した。
豊丸さんは名古屋市の一心寺の出身。20歳で前住職に後継ぎのいなかった託願寺に入寺した。20代の終わり頃、前住職の介護費などで寺の運営が行き詰まった。「名古屋に帰らないか」と父親に言われたことに、反発した。「意地でもここを動くか」。それが、託願寺に腰を据える直接のきっかけだった。その後定子さんを坊守に迎えた。以来、ずっと考えてきた。「私はなぜここにいるのか」と。「このお寺の存在意義を絶えず問わざるを得ませんでした」と豊丸さん。お寺は聞法の道場。その意味を、今も問い続けている。
(福井教区通信員・藤 共生)
『真宗』2022年9月号「今月のお寺」より
ご紹介したお寺:福井教区第二組託願寺(住職 牧野豊丸)※役職等は『真宗』誌掲載時のまま記載しています。