『もしもの時は最初に久證寺へお電話下さい』
愛知県清須市にある久證寺の寺院葬のご案内のチラシには大きな字でそう書かれています。
「久證寺が大切にしていることは、チラシに書いてあるこの一言なんです。現代ではホールでの葬儀が主流になり、僧侶はそこで儀式を勤めるために招かれる、という形になりつつあると思います。しかし久證寺ではあくまで寺院が主導して葬儀会社と連携を取り、大切な人を亡くされたご親族の方と一緒に葬儀を執り行っていきたいと思っています」
久證寺の住職・名和正真(なわしょうしん)さんは穏やかな表情でそうお話しくださいました。
久證寺は14年前から寺院葬に積極的に取り組んでおり、地域の葬儀会社や仕出し屋さんと連携して、亡き人を真宗の本来の荘厳と儀式で送り出させていただくという理念を大切にしているお寺です。
「お亡くなりになられたという連絡をまず久證寺にしていただいているんです。そこで久證寺が病院から故人様をお迎えする車の手配や葬儀会社への連絡をします。最近ではご自宅に戻られず、そのままお寺で故人様をお迎えするということが多くあり、お寺で枕経のお勤めをさせていただいた後、葬儀の打ち合わせを施主さんとします。お寺が葬儀全体の責任を引き受け、一番はじめから葬儀に関わっていくという姿勢を私たちは大切にしています」
声に応える
寺院葬を行うきっかけとなったのは前坊守の名和啓子(けいこ)さんが御門徒の方からいただいたある要望だそうです。
「今のセレモニーホールでの葬儀はどうしても費用がかかりすぎる、という相談を当時ある御門徒さんからいただいたんです。ホールで葬儀を行えば会場費、施設利用費、人件費、お花代などで200万円を超えるということがざらにあると。せっかくお寺とのご縁をいただいたのだから、お寺で葬儀をしてもらいたいというそのお声が大きなきっかけとなりました」
啓子さんは当時通っておられた真宗学院でのお知り合いの方が寺院葬に取り組んでいたこともあり、そこでの色々なお話を自坊での寺院葬執行の参考にされたとのことです。
亡き人をお寺から送る
また、現代社会における寺院葬の意義について前住職の名和正典(まさのり)さんは、
「今は良くも悪くも分業化が進んでいると思います。葬儀は葬儀会社が仕切り、僧侶はそこに招かれて儀式を執行する。葬儀自体はそれでスムーズに進行するかもしれませんが、その一方でそれでは大切なことが伝わらなくなってしまうのではないかという危機感も抱いています。お寺がはじめから関わることが御門徒の方の安心感にもつながり、本来の儀式の形の中で皆さんと一緒に亡き人を送り出させていただきたいと考えています。寺院がどこまで御門徒の方々に尽くしていけるかということが私たち現代の僧侶の課題ではないでしょうか」
と力強くお話しくださいました。正典さんの言葉には、寺院葬をとおして今の時代における寺院と僧侶の存在意義そのものを確かめなおしていきたいという願いが込められているように感じました。
葬儀は生活の延長線上に
また、住職の正真さんは、
「葬儀の形というのは普段の生活がそこにあらわれるものだと思っています。最近では葬儀に近所の方を呼ばないということも多くありますが、それは普段からご近所との付き合いをあまりしないという生活がそこにあらわれていると思うんです。無駄を省き、効率を重視していくということを大切にするのが現代に生きる私たちの生き方です。その現代人の生き方が家族葬という形として象徴的にあらわれているのではないかと感じています。寺院葬はご本尊を中心とした葬儀です。ご本尊を中心とした葬儀が、ご本尊を中心とした生活を皆さんと確かめなおしていく場になるのではないでしょうか」
と語られました。その言葉は、現代社会の流れの中で僧侶もまた見失いつつある葬儀との関わり方を示しているように思います。「参加者」ではなく「当事者」として葬儀と向き合っていく姿勢を久證寺の寺院葬は問いかけてくださっています。
(名古屋教区通信員 荒山優)