神戸市立王子動物園、桜のトンネル。市内でも有数の名所からほど近い閑静な住宅街の一角に佇む古刹、願正寺。住職を勤めるのは、戸田直夫さん。大谷大学在学中に住職を継職され、30年以上になります。その間には阪神淡路大震災を経験されました。奇跡的にお寺自体に大きな被害ありませんでしたが、甚大な被害があった神戸市灘区のお寺。多くの悲しみと共に住職として歩んでこられました。
直夫さんは「教えと伝統の継承。それだけではなく、悩んでおられる方の拠り処となるようなお寺、住職でありたい」、「お寺と家という繋がりだけではなく、人と人とのつながりを大切にしたい」と語られます。
また直夫さんは、住職と音楽家の「二刀流」。大谷大学卒業後に大阪音楽大学へ進学されました。その後大阪大学大学院において音楽学を専攻され、音楽というものを俯瞰的に学ばれ、その研究成果は国内外における学会で発表を行っておられます。後進の指導にも力を入れられ、小中高生・大学生、一般社会人にまで幅広い層への音楽指導をされているとのこと。ご自身も演奏され、専門はトランペット。「仏法と音楽。かつては全く違う分野と思っていたが、その2つは大きく関係する。仏法を音楽に、音楽を仏法にたとえて思索し、ご門徒方と考えていきたい」と直夫さんは語られます。宗教と音楽について現在直夫さんが考えておられることをコラムとして掲載しましたのであわせてご覧ください。
願正寺の坊守、里恵さんは「年齢や性別を問わず気軽に足を運んでいただけるようなお寺、お参りに来て何か心が軽くなったと思うような空間のお寺にしたい」と笑顔で語られます。
そんな里恵さんも、実は「二刀流」。コロナ下で身動きが取りづらい時間を利用して、専門学校に通ってネイリストの資格を取得されたそうです。その資格を有効に活用し、看板娘犬のさくらちゃんと共に、ご縁で結ばれる来訪者との時間を大切に過ごされています。お寺に来られる方からは「お寺に来るのが毎月の楽しみ」、「阿弥陀さん、さくらちゃんがいる中で、里恵さんとはどんな話でもできる」というお声も聞かれるとのことです。
住職・坊守・音楽家・ネイリスト。合わせて四刀流の願正寺。「ご門徒方からご理解と応援をして頂いていることが何より有り難い」と取材中に何度も語られるお二人(+1匹?)の姿がとても印象的でした。
(大阪教区通信員 志紀正機)
【コラム 宗教と音楽について】
願正寺住職 戸田直夫
「宗教」の教えは言葉で十分に語りきれないと同様に、「音楽」とは何かを言葉にすることも難しい。また「音楽」とは何を指し示すのか、具体的に言えば「音楽」と「音」の区別も実は曖昧なものなのである。しかし、「音楽」によって「心」が揺れ動かされる経験は多くの人がしているであろう。「感動」という感情は何故沸き起こり、それは何処から来るのだろうか。
意識的に頭で理解するだけではなく、無意織の領域に「音楽」は語りかけていると捉えることはできないだろうか。「宗教」とは、自分の意識ではどうしようもない無意識の領域に、たとえ不十分であっても言葉を尽くして語りかけているように感じる。あるいは「語りかけられている」というのが正しいのかもしれない。だから頭で考えている間は分からない。音楽は「感動」という感覚が残ることで分かった気になるが、実は「感動」というものは、その瞬間に過去のものになり実態は分からないし、結局言葉で完全に言い表し得るものでもない。無意識に語りかけてられてくる経験とは―その様な事を考えていると、宗教と音楽は共通した部分が見えてくる。まだまだ答えなど見えぬが一生の課題である。